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Channel: ベイのコンサート日記
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トマーシュ・ネトピル 読響 アレクサンドル・タロー(ピアノ)

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1124日、東京芸術劇場コンサートホール)
 ステージに颯爽と登場した知的な風貌のネトビル。指揮はダイナミックで切れ味がある。音楽の構造ががっしりとしている。オペラとコンサートの両方で活躍しており、作品の様式に合わせ演奏の表情を変える柔軟性もある。2002年ショルティ国際指揮者コンクール優勝の逸材だ。チェコ出身で、プラハ国民劇場、エステート劇場の音楽監督も歴任した。

 

1曲目のモーツァルト「《歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲」。冒頭のニ短調の和音は、ティンパニ、金管を強烈に鳴らし、衝撃的に始まる。テンポが上がると、躍動感があり、オペラの開始の高揚感があふれる。

 

2曲目も初演のプラハにちなんだモーツァルト「交響曲第38番《プラハ》」。最初の《ドン・ジョヴァンニ》序曲の延長線上にあるような躍動感に満ちた演奏だったが、緩徐部分や全体の響きにもう少し細やかなニュアンスもあると良いと思った。

 

後半はフランスの名ピアニスト、アレクサンドル・タローを迎えてのプーランク「ピアノ協奏曲」。前半のモーツァルトとはがらりと様式感を変え、柔らかく繊細な響きを読響から引き出すネトビルの腕はさすがだ。

タローのピアノはまさにプーランクにうってつけ。弾むような明るい音色、キラキラと輝く色彩感、次々に表情を変えていく曲想を楽しそうに弾き分けていく。聴いている側がウキウキとして幸福な気分になるようなピアノだ。

タローのアンコール、ラモー「新クラヴサン曲集から《未開人》」は、軽やかに華やかな響き。次のタローのリサイタルにはぜひ行きたいと思う。

 

ヤナーチェク「シンフォニエッタ」では、バンダの金管(トランペット9、バス・トランペット2、テナーテューバ2)が、頭ではやや不安定だったが、最後のフィナーレで大熱演。ネトビル読響の熱い演奏とともに、大きな盛り上がりをつくっていた。

 

ショルティ国際指揮者コンクールの優勝者や入賞者をここ1年で三人聴いたことになる。昨年4月読響を指揮したアジス・ショハキモフ、今年9月神奈川フィルを指揮したユージン・ツィガーンもそうだ。年度はわからないが、ショハキモフは入賞、ツィガーンは第2位だった。ネトビル、ショハキモフ、ツィガーンに共通するのは、思い切りのよい切れ味の鋭い指揮。これはショルティ自身の指揮と似ている。ショルティの名前を冠するコンクールの性格なのかもしれない。


 


ケンショウ・ワタナベ 東京フィルハーモニー交響楽団 舘野 泉(ピアノ)

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1123日、オーチャードホール)
 ケンショウ・ワタナベは日本人の両親のもと、横浜で生まれた。5歳の時、父親の仕事の関係で渡米。その後はアメリカを生活の拠点にしている。カーティス音楽院で高名な指揮科教授、オットー=ヴェルナー・ミュラー(1926-2016)に学んだ。ミュラーはアラン・ギルバートやパーヴォ・ヤルヴィも教えている。

 

 ワタナベはイェール大学音楽院でヴァイオリンを学び、また分子・細胞・発生生物学の学位も取得した。フィラデルフィア管弦楽団では4年間ヴァイオリンのエキストラを務めたことがある。2016年からはフィラデルフィア管のアシスタント指揮者を務め、2017年ネゼ=セガンの代役で定期演奏会にデビュー、成功を収めた。今後も定期に登場することが決まっている。カーティス歌劇場でオペラも多数指揮しており、コンサートとオペラの両方の指揮者として活躍している。

 

 舘野泉はラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」で、ペダルを効果的に使い、力強いスケールの大きな響きをつくった。ワタナベは東京フィルから切れ味の良い色彩的な音を引き出していた。舘野のアンコールは山田耕筰(梶谷修編曲)の「赤とんぼ」。左手だけとは思えない多彩な響きや装飾が加えられていた。

 

 ケンショウ・ワタナベのマーラー「交響曲第1番《巨人》」は、若々しく溌剌とした表情があり、名演だった。東京フィルもワタナベを盛り上げるように集中力を発揮した。指揮者とオーケストラの関係がうまくいっている時は、熱気が充満し聴く側も爽やかな気分になる。

 

 ワタナベは勢いだけの指揮者ではなく、繊細な部分でも丁寧に細やかな表情をオーケストラから引き出す。例えば、第3楽章の中間部、ハープに乗って弱音器を付けたヴァイオリンが「さすらう若人の歌」からの旋律を奏でる部分は心癒されるものがあった。

 

アメリカを中心に活躍するワタナベらしさと言うべきか、第4楽章では、金管に向かって「もっと、もっと強く!」というように、更に強い吹奏を求め、東京フィルの金管もよく応え、伸びの良い輝かしい音を生み出した。ホルン7人に、トランペット、トロンボーンも加わる立奏から最後にいたる、この曲の最大のクライマックスは、爽快ともいえる解放感とカタルシスをもたらし、場内からブラヴォが多数飛んでいた。

 

ケンショウ・ワタナベは、2018年のセイジ・オザワ松本フェスティバルでサイトウ・キネン・オーケストラを指揮し、バーンスタイン《キャンディード》序曲と、ミュージカル『オン・ザ・タウン』から3つのダンス・エピソードを指揮して好評だった。今後も日本のオーケストラを数多く指揮してほしいものだ。

 

身内の話で恐縮です。家内が伊勢丹新宿店5階でテーブルコーディネートを展示しています。

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身内の話で恐縮ですが、家内が12月10日(火)まで、伊勢丹新宿店5階(キッチンダイニングデコール)で「迎春」をテーマに、蘭の花を飾ってテーブルコーディネート展示をしています。
来年2020年・令和2年は、令和になってから初めてのお正月。また、オリンピック開催の年なので国際色豊かなお正月のテーブルをイメージしたそうです。
 
タイトルは
「晴れやかで華やかなお正月のおもてなし」。
 
コンセプトは、
いつもと違う、和・洋・中・エスニック料理のお重。
どんなお料理にも合う華やかな食器でコーディネート。
 
ポルトガルのヴィスタアレグレのテーブルウエア、山田平安堂の漆器、アクセルのテーブルリネンを使用したとのこと。
 
新宿においでの際は、お立ち寄りいただけたらありがたいです。

On a personal note, until December 10th (Tuesday), my wife is exhibiting a New Year’s table-coordination with orchid flowers on the 5th floor of the lsetan Shinjuku store.
Next year, 2020 is 2nd year of Reiwa. It is also the year of Tokyo Olympic. Therefore, She imaged the New Year's table with multi culture taste.
Coordinating title is
“Beautiful and gorgeous table for the New Year”
The coordination mixed with Western, Chinese and Ethnic tableware will suits for any type of food.
She uses Portuguese Alegre's tableware, Yamada Heiando's lacquerware, Axel's table linen.
Please drop in when you happen to be in Shinjuku.


 

クリスティーナ・ランツハマー ソプラノ・リサイタル

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クリスティーナ・ランツハマー ソプラノ・リサイタル

1126日、紀尾井ホール)

女神が天国から降臨したような清らかで天国的な声。潤いと、温かみがある。オラトリオや受難曲、レクイエムには最適な声だ。強靭さも兼ね備え、劇的な表現にも余裕があり、ワーグナーの楽劇も難なく歌えそうだ。紀尾井ホールで聴くのは贅沢な気分。

 

 バロック時代のイギリスの作曲家パーセルの作品にブリテンがピアノ伴奏部分に編曲を加えた4曲が最初に歌われた。1600年代の典雅な世界が広がった。

 

 続いては、コープランドがアメリカの小都市アマーストでひっそりと詩作を続けたエミリ・ディキンスン(1830-1886)の詩から選び、作曲した作品「《エミリ・ディキンスンの12の詩による歌曲集》から8つの歌曲」。

 

 パーセルもコープランドも詩は英語。ドイツ人のランツハマーの英語のディクション(声楽など舞台での発音法)は、パーセルでは流れるようで優美さとして感じられたが、コープランドでは詩が口語体に近いため、ランツハマーの歌唱は発音が不明瞭で英語らしく聞こえないのが気になった。バーバラ・ヘンドリックスの録音を後で聴いてみたが、英語ネイティブだけに発音は明瞭だった。ランツハマーの声の美しさが、そうした欠点を目立たなくさせてしまっていたが。

 

 後半のJ.P.クリーガー(1649-1725)のアリア4曲に続く、シューマン「リーダークライス」は、素晴らしかった。コープランドでは譜面台が置かれたが、ここでは暗譜。ランツハマーの揺るぎない安定した歌声と、ピアノのゲロルト・フーバーがニュアンスの細やかな見事な伴奏が一体となり、正統的なドイツ・リートを聴く充実感があった。

 

 ランツハマーのアンコールは、全てシューマン。「ことづて」「恋の歌」そして、ミルテの花より、「東方のバラより」。

 

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン放送合唱団 「レクイエムと世界の名曲」(11月27日、紀尾井ホール)

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 ソニー音楽財団主催 10代のためのプレミアム・コンサート「レクイエムと世界の名曲」。前半は、モーツァルトとフォーレのレクイエムから抜粋、後半は世界の名合唱曲で構成されたコンサート。元日本テレビアナウンサー、松本志のぶの司会、久野理恵子さんの通訳で進行した。指揮のペーター・ダイクストラの美しい発音の英語はとても聞きやすい。

 

スウェーデン放送合唱団は男声、女声各16人。前列に女声が下手からソプラノ、アルトの順で並ぶ。男声は逆に下手がバス、上手がテノールという配置。

 

1曲目のスウェーデンのサンドストレム作曲「ヘラジカの歌」は、台地の下から響いてくるような低音から、躍動感あふれる後半部分まで強弱の幅の広さに魅了された。

 

司会の松本さんがダイクストラにモーツァルトとフォーレのレクイエムの違いを尋ねると、『二人のテクストの違いがある。モーツァルトは「怒りの日」を使うなど、より暗い。死が怖かったのではないか。絶筆となってしまった。フォーレは、ミドルエイジで書いた。モーツァルトと較べると明るい。」と明解な答え。

 

ピアノ伴奏はヨハン・ウッレン。リートと合唱の違いとは言え、昨夜同じホールで聴いたクリスティーナ・ランツハマーの伴奏者ゲロルト・フーバーがいかにうまかったかを知ることになった。

 

モーツァルトの《レクイエム》は、「永遠の安息を」「キリエ」「怒りの日」「主イエス」「聖なるかな」が歌われた。ラテン語の明解な発音、バス、テノール、ソプラノ、アルトのパートの分離の良さと最後に宙に消えていく合唱のハーモニーが美しい。合唱はリラックスして歌うが、強靭さもある。ソプラノ・ソロは団員の一人が歌った。

 

フォーレは「情け深いイエス様」「天国で」が歌われた。文字通り天国的に澄み切った合唱。フランス語の発音も美しい

 後半は、指揮のダイクストラが紀尾井ホールの聴衆を高い音から低い音まで4つのグループに分け、一度音程をそれぞれ練習してから、一緒にハーモニーをつくるという、楽しいイベントがあった。みなさん物おじせず、美しい声を響かせ、きれいなハーモニーがホールに響き渡った。それは教会の高い天井にこだましていくようだった。

 

松本志のぶの「どうしたらいい合唱が歌えるのか」という質問に答えて、団員の一人が『一人一人が自分の個性を生かして歌うこと。他の人の声をよく聴くこと。歌いながらだとお互いの顔は全部見えないが、口の動きとか動作をよく見るとわかる。』と答えていた。

 

後半は各国の歌。スウェーデン、日本、アメリカ、フランス、ハンガリー、ロシア、ドイツの曲が歌われた。

 

印象に残ったのは、スウェーデンの作曲家、ヤーコ・マンテュヤルヴィ(1963-)の「偽イヨク」。スカンジナヴィア北端の少数民族サーミ人の即興歌「ヨイク」に似せて作曲した歌詞不明の曲。バリ島の呪術的な男声合唱「ケチャ」の北欧版といった感じの楽しい歌だった。

 

圧巻はラフマニノフ「晩祷」からの3曲。アカペラの分厚い合唱が素晴らしい。スウェーデン放送合唱団は、団員それぞれの個性がうまくミックスされているように思えた。各パートが均一に合わせて歌うと言うより、新国立劇場合唱団の指揮者三澤洋史さんが言う「個性を生かした玉虫色の合唱」の良さ、色彩感のある合唱が特長ではないだろうか。宗教曲以外で合唱をまとめて聴くことが少ないので、今回は発見が多く、新鮮だった。

 

マリス・ヤンソンス逝去 思い出のベートーヴェンとマーラー

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マリス・ヤンソンス逝去の報。いつかはと覚悟していましたが、こんなに早いとは。
心からご冥福をお祈りいたします。

2012年と2016年の5回のコンサートは一生の思い出です。

当時のブログをここにまとめました。お読みいただけたら幸いです。

 

20121126 バイエルン放送響とのベートーヴェンツィクルス初日

https://ameblo.jp/baybay22/entry-11414037602.html

第2夜1127
https://ameblo.jp/baybay22/entry-11415028362.html

第3夜1130
https://ameblo.jp/baybay22/entry-11423787741.html

第4夜121
https://ameblo.jp/baybay22/entry-11432448598.html

 

20161127
バイエルン放送響とのマーラー「交響曲第9番」
 https://ameblo.jp/baybay22/entry-12223487576.html

写真©Peter Meisel (BR)

マリインスキー・オペラ チャイコフスキー「歌劇《マゼッパ》」(演奏会形式)

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122日、サントリーホール)

日本では、上演機会が少ないオペラのため、客席は少し空席があったが、終演後の歓声と拍手はとても熱く、オーケストラと合唱が舞台から去った後も歌手とゲルギエフへのスタンディングオベイションが長く続いていた。

 

あらすじは、ジャパンアーツのサイトにあるのでお読みください。

http://www.japanarts.co.jp/tf2019/opera/

 

歌手は、全員安定感があり、マリインスキー・オペラの層の厚さを実感した。

 

マゼッパ役のウラディスラフ・スリムスキーは、第1幕では、抑え気味だったが、第2幕第2場のマゼッパの独白から一気に全開した。

マリア役マリア・バヤンキナは、しっとりと潤いがある美声。マリアにふさわしい美貌。狂乱したマリアが死に行くアンドレイを赤ん坊と思い込み、子守唄を歌うラストの繊細な表現が素晴らしかった。ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団の繊細な演奏も見事。

 

マリアの父コチュベイ役スタニスラフ・トロフィモフがとても良かった。おおらかで温かみがある声。第2幕第1場、獄中での長いソロ(あの悪党の)( お前たちは間違っていない)の怒りからあきらめに至る心理を良く表現した。

 

マリアの幼なじみで、逃走中のマゼッパにいどみかかり返り討ちにあうアンドレイ役エフゲニー・アキーモフが最高の出来。

 

マゼッパの部下オルリク役ミハイル・コレリシヴィリが存在感を出す低音で好演。コチュベイの妻リュボフのアンナ・キクナーゼもアンナとの二重唱で迫力があってよかった。

 

60人ほどの合唱は少し粗いが、声量がすさまじいので、fffでの迫力たるや、会場を揺るがすようなすごさがあり、これぞロシアの合唱団と思わせた。

 

ゲルギエフの指揮も粗さと繊細さが両方あり、ややリハーサル不足の印象もあったが、マリア最後の繊細な歌唱ではオーケストラを細かくコントロールしていた。

 

バンダの金管、木管、打楽器はオルガン下手横に配置され、処刑の場面や第3幕間奏曲「ボルタワの戦い」では、強烈なマリインスキー歌劇場管弦楽団の強烈な演奏に、さらに力を加えていた。

 《エフゲーニ・オネーギン》のような心理描写の緻密さや、深みは少ないかもしれないが、プログラムに書かれているように、ウクナイナの土俗的な味わいがあり、荒々しい音楽はチャイコフスキーの別の面を見るような新鮮さがあった。

指揮:ワレリー・ゲルギエフ

原作:アレクサンドル・プーシキン

作曲:ピョートル・チャイコフスキー

管弦楽・合唱:マリインスキー歌劇場管弦楽団・合唱団

上演時間:3時間40分(休憩1回含む)

 

◆主なキャスト◆

マゼッパ (バリトン):ウラディスラフ・スリムスキー

コチュベイ (バス):スタニスラフ・トロフィモフ

リュボフ (メゾソプラノ):アンナ・キクナーゼ

マリア (ソプラノ):マリア・バヤンキナ

アンドレイ (テノール):エフゲニー・アキーモフ



 

トマーシュ・ネトピル ジャン=ギアン・ケラス 読響  リゲティ「チェロ協奏曲」ほか

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1129日、サントリーホール)

 最初のモーツァルト「歌劇《皇帝ティートの慈悲》序曲」は、先日のドン・ジョヴァンニ序曲と同じく、力任せと言うと失礼だが、ついそう言いたくなるマッチョな演奏。劇的でパワフル。

 

ステージから、楽員が去り、チェロの演奏台が運ばれ、ケラス一人が登場。リゲティの「無伴奏チェロ・ソナタ」が始まる。ケラスの余裕のある完璧なテクニックと、滑らかな運弓に魅了される。ケラスの手にかかると、どんな難曲でも、楽しいエンタテインメント作品に変身してしまうのは、毎回驚かされる。

 

続いて、楽員が戻り、指揮のネトビルとともに現れたケラスはリゲティ「チェロ協奏曲」を弾き始めた。これも驚異的なケラスのテクニックに唖然となる。「無から現れるように」と楽譜に記された冒頭はpppppppp。pが8つ!何と読むのだろう。「ピアニッシシシシシシモ」だろうか。その超弱音の音の繊細なこと。駒に近い高音の音程を正確にとるだけでも大変なのに、その上信じられない滑らかな弓使いで、同じホ音を長く弾き続ける技術はケラスの独壇場。その音を引き継ぐ読響の楽員個々の腕前もたいしたものだ。


 第2楽章に休まず入る。管楽器、弦楽器の細かなトレモロ、微弱音の細かな音の絨毯の上でチェロが細かく刻んでいき、一体となって緊張感の極致が生まれる。やがて音は減衰、最後はチェロのカデンツァ。音を細かくスライドさせながら静寂のうちに終わった。息を呑む演奏とはこういうものかもしれない。

 

ネトピル読響の繊細で正確な弱音も素晴らしく、ケラスとネトピルは抱き合ってお互いを讃えていた。ネトピルもたくましいだけの指揮者ではない。ケラスは「アリガトゴザイマス。アンコールハバッハノクミキョクイチバンデス」といつものように達者な日本語で告げてから、風が舞うように無伴奏チェロ組曲第1番「サラバンド」を弾いた。

 

後半はヨゼフ・スーク(同名のヴァイオリニストの祖父)の「アスラエル交響曲」。尊敬するドヴォルザークに続き、ドヴォルザークの娘で、27歳の若き妻オティリエまで続いて亡くす、という悲劇的な状況の中で完成させた5楽章からなる力作で、演奏時間約1時間の大作。アスラエルは死をつかさどる天使の名前。前半の3楽章はドヴォルザークに、後半の2楽章は亡き妻に捧げられた。

ネトピルの指揮は力強い。コンクリートの塊がガンガンとこちらに向かって飛んでくるような強烈なパンチ力がある。しかし、第4楽章アダージョの繊細さは、ネトピルの奥深さを感じさせた。愛らしい妻を思い出すようなおだやかで美しい旋律が、次々に現れる。

第5楽章アダージョの冒頭、慟哭するティンパニの強打と、激しい死の動機は再びネトピルの強靭な指揮が炸裂する。激しい嵐が続くが、やがてハープのアルペッジョとともに、天国の世界を思わせる平穏な音楽が現れ、魂を浄化するように、曲は静かに閉じた。
 骨太な指揮のネトピル、また読響にきてほしい。

 


エマニュエル・チェクナヴォリアン ヴァイオリン・リサイタル(12月1日、白寿ホール)

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今年24歳のエマニュエル・チェクナヴォリアンは、アルメニアの指揮者ロリス・チェクナヴォリアンの息子としてウィーンに生まれ、ウィーン国立音楽大学に通い、アルバン・ベルク弦楽四重奏団のゲルハルト・シュルツに学んだ。2015年シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール第2位、ベスト・シベリウス演奏賞も受賞、注目を浴びた。
 

 チェクナヴォリアンは、若々しく力強いヴァイオリンを弾く。ベアーズ国際ヴァイオリン協会から貸与された1698年製ストラディヴァリウスの艶やかな美音も駆使する。ただ表現力はそれほど深くない。

 

 バッハのヴァイオリン・ソナタ第3番は、様式感はあるものの、音楽が流れていくだけで、弾むような躍動感や格調の高さがあまり感じられない。ピアノのマリオ・ヘリングも滑らかに弾いていくが、二人はもう少し緊密にやりとりして欲しい。

 

 ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第5番《春》」も、同じようにさらさらと流れていく。第3、第4楽章の激しい部分でのチェクナヴォリアンは、技術的には安定しているが、言いたいことが余り伝わってこない。勢いはあるが、作品の内面にもっと踏み込んでもいいのでは、と少しじれったい。

 

 後半のブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第3番」が、この日一番良かった。ブラームスの渋さが良く出ていた。第2楽章アダージョでは情感があり、激しく情熱的な第4楽章も、チェクナヴォリアンの少し粗削りなヴァイオリンによく合っていた。

 

 シューベルトの幻想曲は、溌剌として、チェクナヴォリアンと作品が良く調和していた。ピアノのマリオ・ヘリングも、良く弾きこまれたピアノで、チェクナヴォリアンとの一体感は充分。ヘリングは母が日本人、父はドイツ人。アンコールのクライスラー《愛の悲しみ》《愛の喜び》は、自然な日本語で紹介していた。

 

 NHKのテレビ収録が入っていたので、BSクラシック倶楽部で近く放送される予定。

アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル(12月3日、東京文化会館大ホール)

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 オール・ショパンプログラム。バルダのプロフィールは、マネジメントのホームページをお読みください。

http://www.concert.co.jp/artist/henri_barda/

 

バルダを聴くのは、初めて。印象を一言で言えば、現代のピアニストとは全く違い、即興的と思えるほど、テンポやアーティキュレーションを自由に動かすピアニスト。
 全体的にはテンポが速く、一気呵成に最初から最後まで行ってしまう。バラードの第1番の第2主題はもう少し歌ってほしいと思うけれど、さっさと終わってしまう。

 

せっかちなまでのピアノだが、ピアノ・ソナタ第2番《葬送》の第4楽章プレストは、その切迫したピアノが効果的で、一陣の風が、さっと通りすぎるような鮮やかさが圧巻だった。

 

マズルカは、バルダにとても合っている。自由なアゴーギクがポーランドの民族舞踊オベレクやクアヴィアクの拍子の揺れ動くリズムと相性が良い。

 

最後のピアノ・ソナタ第3番の第4楽章の激情も重苦しくはなく、爽快なまでに、駆け抜けて行った。

 

バルダは、往年の巨匠ピアニストのように、自分のスタイルを持っていると思う。
貴族的でもあり、洗練されているとも言える。ショパンなら、ワルツがきっと素晴らしいのではないか、と思っていたら、嬉しいことにアンコールで第8番と第5番を続けて弾いてくれた。物凄く早いテンポだが、とてもお洒落。

 

会場には、バルダについての本「神秘のピアニスト アンリ・バルダ」も執筆された青柳いずみこさんもいらしていて、盛んに拍手されていた。
 

プログラム:
4つの即興曲

1番 変イ長調Op.29、第2番 嬰ヘ長調Op.36

第3番変ト長調 Op.51、第4番 嬰ハ短調Op.66(幻想即興曲)
舟歌  嬰ヘ長調 Op.60

ソナタ第2番  変ロ短調 op.35 「葬送」

バラード第1番 ト短調Op.23

バラード第4番  へ短調Op.52
4つのマズルカ

38番 嬰へ短調Op.59-3、第40番 へ短調Op.63-2、第41番嬰ハ短調Op.63-3、第35番 ハ短調Op.56-3

ソナタ第3番 ロ短調Op.58


 

マーク・ウィグルスワース 東京交響楽団 マーティン・ジェームズ・バートレット(ピアノ)

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(12月7日、ミューザ川崎シンフォニーホール)
 バートレットの弾くモーツァルト「ピアノ協奏曲第24番」は、清潔で品の良い演奏。第3楽章はもう少しパトスがあってもいいのではないかと思う。第2楽章のピアノと木管との対話は、天国的だった。東響の木管は、オーボエの荒絵里子を初め皆うまい。ファゴットとオーボエ、フルート、クラリネットのアンサンブルのハーモニーが心地よい。
 
 ウィグルスワースの指揮は、弦から艶のある音を引き出し、ハーモニーも綾なすように美しい。ウィグルスワースの指揮は、終始ピアノとの一体感があり、充実のモーツァルトだった。
バートレットのアンコールは、J.S.バッハ「パルティータ第2番より第6曲カプリッチョ」。鍵盤の上を左右に駆け抜けていく軽やかなタッチ。
 
 マーラー「交響曲第1番《巨人》」は、思い入れたっぷりとした粘っこい演奏ではなく、端正であっさりとしている。しかし、各楽章のクライマックスは、熱量が充分あり、第4楽章最後は、生演奏でしか起き得ない、突き抜けるような、この日最大の頂点に達した。
 
 第1楽章は、最初もやもやとして、方向が見えなかったが、展開部のクライマックスから一気に勢いを増し、最後は強烈に締めた。
 その勢いは、続く第2楽章にも受け継がれ、付点音符のついた低弦のエネルギュッシュな演奏は切れがあった。トリオのワルツ風主題は、荒絵里子のオーボエが滑らかに歌った。
 
 第3楽章のコントラバスの主題は、ソロではなく、8台の合奏。中間部の「さすらう若人の歌」第4部の旋律は、余りにもはかなく繊細。旋律が聞こえてこない。少しやり過ぎではなかったか。
 
 第4楽章は、速めのテンポで切れ味良く進む。オーケストラに無理をさせないので、最強音でもバランスが崩れない。
練習番号16からの第2主題は、あっさりとしていた。ここは、以前ダニエル・ハーディングが新日本フィルとのリハーサルで「スロー・ダンスを踊るように」と指示したロマンティックな旋律が美しいところ。もっと、たっぷり歌ってほしい。中間部のクライマックスは、再び盛り上がっていき、第3部は、最初に書いたように電流が背中に走るような盛り上がりとなった。金管の立奏は、ホルンのみだった。
 
 ウィグルスワースの指揮は、誇張やハッタリがなく、面白味は欠けるが、職人的な指揮者のように、作品のツボをはずすことはない。彼の指揮は二度目。昨年4月、同じく東京交響楽団を指揮したブルックナー「交響曲第4番《ロマンティック》」(コーストヴェット第3稿)を聴いた。56分の快速演奏だった。モーツァルトは素晴らしいので、いつか彼の指揮で交響曲をまとめて聴きたいものだ。ただ、同じような表情が続くような気もするので、1曲に絞ったほうがいいかもしれない。
 
写真:マーク・ウィグルスワース©Ben Ealovega

バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第1番」とガーシュウィンとラフマニノフ

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今日、東京文化会館で聴いた、アラン・ギルバート指揮、東京都交響楽団、矢部達哉のヴァイオリンによるバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第1番」。冒頭のロマンティックな主題が、あるスタンダード・ジャズか、ポピュラー曲にそっくりだけれど、曲名が思い出せない。喉まで出かかっているけど、出てこないので、ずっとヤキモキしていました。

ちなみにこの映像の、ヴァイオリンのソロ、最初の4つの音「ニー嬰ヘーイー嬰ハ」です。バルトークが恋したヴァイオリニスト、シュテファイ・ゲイエルに捧げた曲で、彼女を表す指導動機として何度も出てきます。

https://www.youtube.com/watch?v=CLDn-F2Q4Gs
 

 

帰ってから思い出しました。ビル・エヴァンス・トリオのアルバム「モントゥルー・ジャズ・フェスティバルのビル・エヴァンス」で聴き込んだ「アイ・ラヴス・ユー・ポーギー」(ジョージ・ガーシュウィン作曲、オペラ「ポーギーとベス」より)です。大好きな曲。
https://www.youtube.com/watch?v=HdzflG9HgWM


バルトークの作品は、1907年から1908年に作曲されましたが、公開の初演はなく、シュテファイ・ゲイエルの死後、1956年頃に彼女の遺品から発見されたので、ガーシュウィンは、この曲を聴いていないと思います。偶然だとしたら、なんとロマンティックなことでしょう!

友人から、ラフマニノフ「交響曲第2番」第3楽章の有名な主題がさらに似ていると教えてくれました。移調すると6音目まで同じとのこと。
https://www.youtube.com/watch?v=QNRxHyZDU-Q&fbclid=IwAR2u7F_yuz_qIaGRSMKga8nJsi3DAMXi1F4T7FbLuF8qt7ekZp5YJDyQKCo

 

ラフマニノフの交響曲第2番の作曲は、バルトークより1年早い1906年から始められ1907年に完成。1908年初演。なんとほぼ同じような時期に作曲されています。バルトークがラフマニノフの初演を聴いたのか、あるいは楽譜を見たのか。これも偶然なのでしょうか?なんとも不思議です。
 

1918年にラフマニノフはアメリカにわたり以後ロシアに帰ることはありませんでした。アメリカではコンサートピアニストとして活躍しました。
ガーシュウィンのオペラ「ポーギーとベス」の完成は1935年。
https://youtu.be/FwkMGZZ02H8?t=166



 

ここに至って以下の推測ができます。

   ラフマニノフをバルトークとガーシュインが聴いた可能性。

   ラフマニノフをガーシュインが聴いた可能性。

   三者の旋律が似たのは全くの偶然。

 

実際はどうなんでしょう?

アラン・ギルバート 東京都交響楽団 矢部達哉(ヴァイオリン)

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129日、東京文化会館大ホール)
 相思相愛のギルバートと都響、今日も好調。プログラムはとても凝っていて、現代音楽の作曲家が、バロック音楽やロマン派の作曲家作品を編曲、あるいは改作した曲に、バルトークとハイドンを組み合わせたもの。

リスト(アダムズ編曲):悲しみのゴンドラ

バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1 Sz.36

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アデス:クープランからの3つの習作(2006)(日本初演)

ハイドン:交響曲第90番 ハ長調 Hob.I:90

 

前半は旋律の美しいロマンティックな曲、後半はユーモアを感じさせる曲にまとめられていた。

 

1曲目はジョン・アダムズが晩年のリストの作品「悲しみのゴンドラ」を編曲したもの。

波の上を漂うような、ゆったりとしたリズムの上で、静かな旋律が流れて行き、やがて消えていく。ギルバートが指揮する都響の音は、温かみがある。

 

矢部達哉をソリストとしたバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、26歳のバルトークが、若手女性ヴァイオリニスト、シュテファイ・ゲイエルに恋して、彼女のために作曲、献呈した。結果的に、バルトークはゲイエルとの恋愛は成就せず、作品も演奏されることなく、ゲイエルの死んだ1956年まで発見されなかった。


 2楽章から成り、第1楽章は甘くロマンティックな主題から始まる。以降連綿と甘い旋律が続く。バルトークとは思えない、とろけるような音楽だ。第楽章は技巧的で、バルトークがゲイエルのテクニックを披露させるために書いたもの。

 

 矢部達哉の演奏は、艶やかな音と正確なテクニック、端正な表現で格調高い。もう少し前に出て目立ってもいいのではと感じた。

 

 アデス「クープランからの3つの習作」は、ブリテンの再来といわれるアデス(1971-)の天才的なひらめきを感じさせる作品。ただ楽しく美しいだけではなく、聴いているとリズムの変化や音色に細かな細工が施されていることがわかってくる。

オーケストラの配置は、弦楽器が左右対照になるように分かれる。楽器も巨大なバス・マリンバや、バス・フルートなど、ふだん聴く機会の少ない楽器も使われる。

ユーモアも感じさせる作品で、聴くほうももちろん、演奏するほうも楽しいと思うが、都響の楽員は、真面目なのか、表情が硬い。もっと楽しそうに演奏してもいいのでは。

 

最後は、ハイドンの「交響曲第90番 ハ長調」。ピリオド奏法ではなく、適度にヴィブラートを使った聴きやすい演奏。颯爽として活気のある演奏。第1楽章など、ベートーヴェンの第4番を思わせる生き生きとした表情がある。

 

悪戯が大好きなハイドンのユーモアに輪をかけて、ギルバートがお茶目ぶりを発揮した第4楽章が楽しかった。


 弾けるような勢いのある第4楽章の終結部がきっぱりと終ると、拍手がパラパラと起こった。ギルバートが客席を向いて、「ゴメンネ!」と日本語で言ってから、4小節の長い休止を置いて、本当の終結部がまた始まった。

 

びしっと2回目が終わり、今度こそ終わりと、ギルバートが楽員を立たせようとすると、コンサートマスターの四方恭子が「ちょっと待ってください。再現部からの繰り返しの指示を忘れています。」と、パート譜をギルバートに見せる。客席から笑いが起こる。

しかし、これはギルバートと都響の考えた演出に違いない。

 

今度こそきっちりと終ると、盛大な拍手が起きた。ギルバートは、カーテンコールに戻るとき、もう一度繰り返しをしようと指揮台に向かっていき、さらに笑いをとっていた。

都響のfacebookにそのときの映像が上がっていますが、音声が入ってないのがなぜかわかりません???。

https://www.facebook.com/watch/?v=441932249805209&external_log_id=b7e31d971030b51f8ee650c81b82638a&q=%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%A5%BD%E5%9B%A3

 

 

ギルバートと都響のように、再現部の繰り返しをしたのがサイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団のライヴCD。最初の休止で客席から盛大な拍手が起きる。二度目の休止でも、またもや盛大な拍手。ラトルが何か言ったのか、笑い声も起きた後、三回目が始まり、今度こそ終わると最後は大喝采。これも楽しいです。

ファン・ディエゴ・フローレス テノールコンサート

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1210日、東京オペラシティコンサートホール)
 「100年に一人のテノール」といわれるファン・ディエゴ・フローレス。ステージに登場したとたんに、スターの持つオーラが輝く。
最初のベッリーニの2曲は、ウォーミングアップ風に軽く歌う。しかし、ピアノが1曲演奏した後の、ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」は凄かった。ホールがビリビリ震えるように張りのある声。

続く《ランメルモールのルチア》より「わが祖先の墓よ……やがてこの世に別れを告げよう」の最後も、聴くものの脳天を突き抜けるが如く、ここぞとはかりに、力を込めて歌われた。

ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より「あの人から遠く離れて…燃える心を…おお、なんたる恥辱」の後半、「おお、なんたる恥辱」も威容があった。

 

 休憩後のレハールのオペレッタからの3曲は、各曲のヤマだけは強く歌うが、軽く流している印象。

 

 この夜一番良いと思ったのは、マスネ:オペラ《ウェルテル》より「春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」。絶唱されることが多いようだが、フローレスはもっと繊細に、細やかな表情をつけて歌った。フローレスのナイーブな佇まいと曲が合っていると思った。

 

ビゼー:オペラ《カルメン》より「お前の投げたこの花を」(花の歌)も、男の弱さが素直に出ていたのではないだろうか。

 

 プログラム最後のプッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より「冷たい手を」では、「なぜって、あなたが持ち込んでくれたのだから、希望を!」のla spranza!に背筋がゾクゾクした。

 

 アンコールはなんと7曲!フローレスはギターを持って登場。CDもあるラテンのレパートリーからまず4曲。ペルー生まれのフローレスの父はラテン音楽の歌手であり、本人も若いころはラテン音楽に夢中。作曲もしただけあって、堂に入ったもの。ギターはまずまずの腕前か。

リラックスしたい、とばかりに、タキシードのボウタイを外すと、後ろに放り投げた。ピアノを飛び越して見事に着地。

「ベサメ・ムーチョ」は甘く、少しくずして歌う。タンゴの巨匠カルロス・ガルデル作曲の「想いの届く日」は、タンゴというよりも甘いバラード。ククルクク・パロマでは、ステージの前後左右を見ながらパローーーーマと息の続く限り歌って笑いを誘う。

 

 聴衆は熱狂。これでおしまいかなと思っていると、今度はピアノ伴奏を担当していた、ヴィンチェンツオ・スカレーラを伴って登場。「グラナダ」を朗々と歌う。アンコールはさらに続き、極めつけ「誰も寝てはならぬ」の最高音を決めると、聴衆はたまらず、スタンディング・オベーション。最後にとどめの「女心の歌」で終了。照明が明るくなっても拍手はなかなか止まず、もう一回フローレスが登場。長いコンサートが終わった。

 

 フローレスは初めて聴いたため、全盛期といわれる20年前、10年前の凄さはわからないが、今回は、声の迫力だけではなく、細やかな表現力という、彼の特長は充分感じられた。

 テレビ録画が入っていたが、主催のBSフジか、あるいはNHKかどうかは、わからない。

このあと、14日(土)19時から、サントリーホールで、オーケストラとのコンサートが予定されている。


(プログラム)
ベッリーニ:「お行き、幸せなバラよ」

ベッリーニ:「喜ばせてあげて」

ベッリーニ:ラルゴと主題 ヘ短調(ピアノ・ソロ)

ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》より「人知れぬ涙」

ドニゼッティ:オペラ《ランメルモールのルチア》より

「わが祖先の墓よ……やがてこの世に別れを告げよう」

ヴェルディ:歌のないロマンツァ ヘ長調(ピアノ・ソロ)

ヴェルディ:オペラ《アッティラ》より「おお、悲しいことよ!でも私は生きていた」

ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より

「あの人から遠く離れて…燃える心を…おお、なんたる恥辱」
(休憩)

レハール:オペレッタ《微笑みの国》より「君はわが心のすべて」

レハール:オペレッタ《ジュディッタ》より「友よ、人生は生きる価値がある」

レハール:オペレッタ《パガニーニ》より「女性へのキスは喜んで」

ドニゼッティ:ワルツ ハ長調(ピアノ・ソロ)

マスネ:オペラ《ウェルテル》より「春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」

ビゼー:オペラ《カルメン》より「お前の投げたこの花を」(花の歌)

マスネ:オペラ《タイース》から 瞑想曲(ピアノ・ソロ)

プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より「冷たい手を」

 

アンコール:

バラスケス:ベサメ・ムーチョ

ガルデル:想いの届く日

コルテス:シェリト・リンド
メンデス:ククルクク・パロマ

ララ:グラナダ

プッチーニ:誰も寝てはならぬ

ヴェルディ:女心の歌
 

クァルテット・エクセルシオ+吉井瑞穂&景山梨乃 (12月11日、紀尾井ホール)

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Quartet Plus」は弦楽四重奏に留まらない室内楽の新しい魅力を伝えてくれるシリーズ。今回は、結成25周年と節目の年を迎えたクァルテット・エクセルシオが、オーボエ吉井瑞穂、ハープ景山梨乃と共演。

「オーボエ、ハープと弦楽四重奏のための六重奏曲(フルビーン変奏曲)」は、チェコの作曲家
クヴィエシュが
1999年に書いた作品。
今回が日本初演。
現代音楽だが、ロマンティックで4部からなる力作。

 

全員の集中力のある演奏が素晴らしかった。
詳しくは「音楽の友」2月号のコンサート・レヴューに書きます。


アラン・ギルバート 都響 マーラー「交響曲第6番《悲劇的》」 (12月14日・サントリーホール)

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 天馬空を行くがごとくの、壮大な演奏。ギルバートのマーラーは、若々しくエネルギーに満ちあふれ、悲劇に立ち向かう英雄の姿が雄々しく描かれた。

 

ギルバートの頭の中には、作品のはっきりとした設計図ができており、演奏に曖昧なところがない。隅々まで見渡せるような明解さがあった。

ギルバートと都響は、深い信頼関係で結ばれ、コミュニケーションが良くできているため、演奏がギクシャクせず伸び伸びとしている。流れが良く、呼吸が楽にできるような気がする。ギルバートの指揮に即座に反応する都響の演奏は爽やかだった。約80分の間、一瞬たりとも弛緩することのない演奏は充実していた。

 

第1楽章から、アクセル全開。行進曲的第1主題は、矢部達哉ひきいる第1ヴァイオリンの引き締まった響きが素晴らしい。ホルンが斉奏で咆哮する。モットー主題のトランペットの突き抜けるような音と、ティンパニの強烈な打音が凄まじい。ギルバートは木管のコラールに繊細な弱音を求め、都響もそれに見事に応える。アルマの主題とも言われる第2主題は輝かしい響きがあった。

 

展開部に入って静かになると、打楽器の一人が下手舞台裏に行く。カウベルの音を遠くから鳴らし、効果的だった。第2主題のソロを吹くホルン首席が珍しく不調で、音を外した。この日はいいソロもあったのだが、ミスが多く、ギルバートも演奏後最初に立たせることはなかった。明後日はきっと挽回していいホルンを聞かせてくれることだろう。

 

アンダンテ・モデラートの楽章が2番目に演奏された。残念ながらホルンのソロは不調だったが、全体としてこの楽章の出来は素晴らしかった。ギルバートは主題を温かみのある表情でたっぷりと歌わせた。オーボエのソロは見事。最も感動的だったのは、弦を中心に再び主題が劇的に盛り上がっていく後半部分。憧れと不安が混じった旋律が、どこまでも果てることなく高揚していった。

 

スケルツォは第3楽章に置かれた。ここでのホルン斉奏とティンパニは力強い。トリオの木管も好調だった。ギルバートの指揮は切れ味があった。

 

長大な第4楽章は、ギルバートと都響の集中力と熱気はさらに高められた。この楽章を最大の山場として、準備怠りなく備えていたことが伺え、持てる力をすべて出そうというギルバートと都響の強い決意が感じられた。

ハンマーは三度叩かれた。これまで聴いた演奏はすべて二度で、コンサートで聴いたのは初めてだ。マーラーがアルマに『英雄は敵から三回攻撃を受け、三回目は木のように倒れてしまう』と語ったと伝えられるが、その言葉通り終結部直前の三度目のハンマーは、悲劇的な最後を飾るにふさわしいものがあった。

 

ギルバートと都響は高く舞い上がり下降する劇的な序奏から、ティンパニの強打、テューバやホルンに出る第1、第2主題の暗示まで、すべてきっちり決めていく。悲壮感のある第1主題の勇壮な行進曲に続く推移部は、ホルン首席が名誉挽回とばかりに豪快に吹いた。

 

展開部はチェロの奏でる第1主題断片のガリガリという音がすさまじい。輝かしい第2主題の頂点で第1のハンマーが叩かれてから、第2のハンマーに至るまで盛り上がっていく部分は、ギルバートと都響の力が最高度に発揮された。

 

再現部から、終結部となり、第3のハンマーが打ち下ろされ、打ちのめされたように静寂が支配的になるが、最後に鉄槌を下されるような強烈な和音とティンパニが叩かれ終わった。

 

 サントリーホールを埋めた聴衆のマナーは素晴らしく、ギルバートのタクトが下ろされる約8秒間、静寂が保たれた。

 

この演奏はギルバートと都響の名演の中でも、ベストのひとつだったと思う。16()19時から、同じくサントリーホールで2回目の公演があるが、今日の瑕疵は修正されるだろうから、さらなる名演が期待できるのではないだろうか。

 




 

アイヴァー・ボルトン指揮 読響 《第九》特別演奏会 (12月18日・サントリーホール)

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 読響初登場のボルトンは、イギリス出身。1984年に古楽器アンサンブル、セント・ジェイムズ・バロックを設立。今は、バーゼル響首席、マドリード王立劇場音楽監督他の任にある。

 

感想を一言で言えば、「古楽器奏法による熱い<第九>」。ボルトンは、熱い指揮者だ。登場した時から、大きな身体からエネルギーがあふれ出るようだ。無駄な動きはなく、音楽にすぐ集中する。指揮は熱いが、自分に酔うことはなく、冷静でもある。ノンヴィブラートの弦、バロック・ティンパニと木のマレット(第1楽章は通常のマレット)。木管もヴィブラートは使わない。すっきりとした響きだが、音は厚みがあり、充実している。

 

テンポは速め。演奏時間は65分前後だろうか。オーケストラをバランス良くコントロールする点が素晴らしく、特に木管のバランスが良い。どの木管もきちんと聞こえてくる。対位旋律も良く聞こえる。

 

ボルトンは、弦のアーティキュレーションについて、はっきりとした考えを持っているようで、第3楽章1主題は、部分的に厚い響きをつけたり、また透明にしたり、と多彩な表情があった。読響の弦は今日も好調で、特にチェロとコントラバスの切れと響きの良さ、合奏の一体感は傑出していた。コンサートマスターは小森谷巧。

 

今日は日橋辰朗が入っており、ホルンは抜群の安定感があった。ソロの素晴らしさはもちろん、オーケストラの中にあっても、常にハーモニーの要となっていた。ボルトンがソリストや新国立劇場合唱団のあと、最初に日橋を立たせたのも頷ける。

 

 ソリスト4人(ソプラノ:シルヴィア・シュヴァルツ、アルト:池田香織、テノール:小堀勇介、バリトン:トーマス・オリーマン)は安定感があった。新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)は約80人。二重フーガでも各声部が明瞭で、女声も力強い点は、さすがの実力。今年は例年以上に分厚く強力な合唱だった。終演後ボルトンが大きな身体で三澤をがっしりと抱擁していた。

 

 前半に、武蔵野市国際オルガンコンクールで日本人として初優勝し、ニュルンベルク、ブリクセン、ピストイアの各オルガンコンクールでも優勝している、福本茉莉がJ.S.バッハ「コラール(目覚めよ、と呼ぶ声あり)」とブルーンス「前奏曲」を弾いた。後者ではサントリーホールのオルガンを壮大に鳴らし、迫力のある演奏を披露していた。

 

 

 

 

チョン・ミョンフン 東京フィル 令和元年特別「第九」演奏会

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1219日・東京オペラシティ)

第九の後にエルガー「戴冠式頌歌」第6曲《希望と栄光の国》」が出演者全員により、演奏された。「威風堂々」中間部と同じ旋律で、1902年、英国王エドワード7世の戴冠式前夜のガラ公演のために作曲された。歌詞は詩人のアーサー・クリストファー・ベンソンによる。新天皇の即位と令和のスタートを祝うため演奏されたのだろう。徳仁(なるひと)天皇は、イギリスに留学されたこともあり、この曲が選ばれたのかもしれない。

 

ミョンフンの第九は、昨夜のボルトンとは異なり、オーソドックスな演奏。ヴィブラートもかけ、ティンパニもモダン楽器を使用していた。演奏時間は、66分なのでボルトンと変わらないが、古楽的なアプローチではないため印象がずいぶん違う。主情的、劇的で、ロマンティックな演奏に聞こえる。

 

特に第1楽章と第4楽章はミョンフンの気合も入り、ドラマティックな演奏になっていた。第4楽章最後の合唱により最も高揚する“Freude, schöner Götterfunken”(喜びよ、神々の美しい閃光よ)を雄大に、たっぷりと歌わせ、続いて一気呵成にオーケストラの総奏で締めくくった。

一方で、第2楽章スケルツォと、第3楽章アダージョ・モルト・エ・カンタービレは、意外に淡白な表情だった。

 

ソリスト(ソプラノ:吉田珠代、アルト:中島郁子、テノール:清水徹太郎、バリトン:上江隼人)は、重唱がやや平板な印象を受けた。4人は、第4楽章のオーケストラによる「歓喜の主題」演奏中に入場したが、こういう入場の仕方もあっても良いと思う。一昨日の読響では、第2楽章スケルツォの後にソリストが入場。激しいスケルツォが終わった後で、これもまたタイミングとしては良かった。

 

合唱は新国立劇場合唱団。読響の第九とはメンバーが異なるのではないだろうか。指揮は水戸博之。女声も男声と変わらずパワフルで、各声部がくっきりと聞こえてくる。チョン・ミョンフンの激しい指揮に反応したのか、読響の第九よりも、荒々しさがあった。合唱には、多摩ファミリーシンガーズ(児童合唱指揮:高山佳子)も加わっていた。

 

今年の第九は、この後、24日にレオシュ・スワロフスキー&東京都交響楽団と、28日にジョナサン・ノット&東京交響楽団に行く予定。ノットの第九がどういう演奏になるのか興味津々だが、「音楽の友」にコンサート・レヴューを書くため、ブログは短い感想に留めるつもり。



 

ボルトン指揮、読響「第九」で、ティンパニの皮が破れるアクシデント発生! 

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18日(水)に聴いたボルトン指揮、読響の「第九」第2楽章スケルツォで、ティンパニの皮が破れるという珍しいハプニングがありました。「ベシャ!」という大きな音がしたので、何だろうと気になっていました。ある方のブログにティンパニの皮が破れたとあったので、詳しい状況を読響の広報に問い合わせたところ、写真とともに詳細な回答をいただきました。読響の了解をもらいましたので、ご紹介します。

 

事故が起きたのは、第2楽章スケルツォ再現部、モルト・ヴィヴァーチェに入って5小節目、スフォルツァンドの最初の音を叩いたとき。

読響ティンパニ奏者の武藤厚志さんの24インチ、26インチ、29インチの3つのティンパニのうち、真ん中に置いた26インチの皮が破れてしまいました。この第2楽章では、Fのオクターブの2音を、26と29の2つで演奏していました。

これは長年演奏している武藤さんも初めての経験だったそうです。その後、24でも対応できることから、破れた26の左右に置かれた24と29のティンパニで演奏を続けました。

 

今回たまたま第2楽章が終わったところで、ソリスト4人と大太鼓、シンバルの奏者が入場することになっており、その合間に破れたティンパニと24の位置を変え、第3、第4楽章も2台で対処できました。

武藤さんは、「第九」の演奏では、音色へのこだわりと、第3楽章と第4楽章がアタッカで進む場合などに備え、3台で演奏しているとのこと。ティンパニストの中には4台で演奏する人もいるそうです。

 

なお、本日20日サントリーホール以降の演奏(21日、22日東京芸術劇場、23日浜松アクトシティ大ホール、24日大阪フェスティバルホール)では2台で演奏する予定。皮の張替え後に、本番で使用できるまでは1週間以上かかるとのことです。

 

通常はティンパニの予備まで用意するオーケストラはないでしょうから、今回は幸運だったかもしれません。

 

写真は実際に破れたティンパニ(こんなに激しく破れたとは!)と、それを前にした指揮者のボルトンと武藤さんの笑顔の2ショットです。(提供:読響)

 

ティンパニ破れても、カーゲル「ティンパニ協奏曲」を真似る余裕あり!

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読響の第九で、ティンパニが破れた件のブログのアクセスがすごいことになっています。
読響さんから、武藤厚志さんがカーゲル「ティンパニ協奏曲」の最後を真似た写真を送っていただいたので、ご紹介します。
武藤さんも「役者やのう」(笑)
ちなみに、カーゲル「ティンパニ協奏曲」その瞬間は下記映像をごらんください。

https://youtu.be/MIvYV_d1YuA?t=1225

 

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