(9月25日・東京芸術劇場)
グリンカ「歌劇《ルスランとリュドミラ》序曲」
切れがあり、パワフル。第2主題を弾くチェロ(首席は富岡廉太郎)が惚れ惚れするほど艶やかでいい音。ヴァイオリンの高音は少しきつめ。
ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲 作品43」
パヴェル・コレスニコフは1989年2月生まれ、33歳。鋼のように強靭で正確な打鍵でぐいぐいと弾いていく。「怒りの日」の主題がピアノにはっきりと出る第10変奏は強烈な打鍵。一方で有名な第18変奏のように、ピアノが歌うところはレガートで滑らかに弾く。ヴァイグレ読響はコレスニコフに合わせた、切れのいい華やかな音できっちりとつける。少し荒々しいが、迫力ある両者の共演だった。
コレスニコフのアンコール曲はルイ・クーブラン「ボーアンの手書き譜からの舞曲集より サラバンド イ短調」。
リムスキー=コルサコフ「交響組曲《シェエラザード》作品35」
シンフォニックで緻密な《シェエラザード》。ヴァイグレと読響はこのところますます緊密なアンサンブルをつくりつつある。色彩やロシア的な雰囲気こそ少ないかもしれない。しかし、ここまで緻密でダイナミックな演奏を聴かせてもらったら、文句などつけようがない。
特にすごいと思ったのは、第4楽章。バグダッドの祭りの主題、第3楽章「若き王子と王女」の中間部の主題、シェエラザードの主題がからんでクライマックスとなっていく部分。リムスキー=コルサコフの管弦楽法が発揮された頂点は細部まで完璧に組み立てられており、読響の楽員が持てる力を100%発揮するのは圧巻。トロンボーンに王の主題が出てさらに大きく盛り上がり、ついには銅鑼が鳴らされて、船が難破する場面も凄まじいものがあった。
読響の首席奏者全員が見事なソロを聴かせたが、コンサートマスター林悠介のソロがやはり飛びぬけて素晴らしかった。これまで聴いた中では、トゥガン・ソヒエフN響の《シェエラザード》でソロを弾いた篠崎史紀が最高だったが、篠崎が妖艶なシェエラザードだとすれば、林は若く理知的なシェエラザード。すっきりとして切れのある目も覚めるように鮮やかなヴァイオリン・ソロを弾いた林を、ヴァイグレが何度も立たせて賞賛していた。
最後のシェエラザードの主題の難しいフラジョレットも林は正確に弾いた。低弦の王の主題と林のシェエラザードの主題が溶け合って、静かに消えていく。ヴァイグレの両手は高く上がったまま。静かに両腕が下ろされるまで、しわぶきひとつなく、フライングの拍手もなく、静寂が保たれ、余韻を充分に味わうことができた。聴衆のマナーも演奏同様に素晴らしかった。