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Channel: ベイのコンサート日記
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ラトル ロンドン交響楽団 ブルックナー交響曲第7番ほか (10月5日・サントリーホール)

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コントラバス8台がステージ正面奥に横一列で並ぶウィーン・フィル・スタイル。ヴァイオリンは対抗配置。

 

シベリウス「交響詩≪大洋の女神≫」

冒頭のフルートの輪郭が明解で、広がりのある響き。たちまちシベリウスの世界に引き込まれる。嵐の場面では、金管に負けない弦のトレモロに厚みがあり力強い。

 

「交響詩タピオラ」
15分ほどだが、交響曲1曲を聴いたような充実感があった。

弦に繰り返される「森の主題」のキリリとして厚みのある音。フルート他木管による神秘的な「タピオの主題」のひんやりとした音もまたシベリウス特有のもの。

 

スケルツォ的な木管の動きの後、フルートとピッコロの高音が出たあと、ヴァイオリンからチェロに出る主題は、詩的で神秘的な雰囲気が漂う。

突然ティンパニと金管が荒々しくこの主題を展開。金管とティンパニは強奏を続けるが、フルートとピッコロの高音へ転換する場面も鮮やか。

「タピオの主題」が登場、金管が鳴らされたあと、力強いトレモロが始まり、金管とティンパニがアクセントを加えていく。ここのとてつもないパワーに驚く。

弦楽の清冽な響きが残り、静まって行った。

 

LSOの響きが少しひんやりとしており、シベリウスによく合う。イギリスのオーケストラとシベリウスの相性の良さは、LSOに限らないが、そのルーツはどこなのだろう。

1930年代に英国シベリウス協会ができるなど、愛好家が多いことは確かだが。
 

ブルックナー「交響曲第7番」(B=G.コールス校訂版)

これだけ精緻で力強く、磨き抜かれたブルックナーを聴くのは初めてではないだろうか。厚みも言うことはなく、繊細かつ強靭な弱音も驚異的。

金管の厚みと輝きは素晴らしく、第2楽章でワーグナーを追悼するためブルックナーが書き加えた部分でのワーグナーテューバ、ホルンのハーモニーも完璧だった。

 

木管、特にフルートの透徹した天国的な音は信じられないほどだ。ミューザでシュトラウスのオーボエ協奏曲を吹いたコッホのオーボエも艶やか。

弦の徹底的に磨かれた音の美しさと切れ味、厚みと強靭さも驚異的。

コントラバスの揺るぎない低音、チェロ群の分厚い音と強靭さ、第2ヴァイオリンの存在感の凄さ。第1ヴァイオリンは言うまでもない。ヴィオラも光る。

 

オーケストラとして世界最高峰の音とアンサンブルの確かさを持つロンドン交響楽団。演奏は一糸乱れず完璧を絵に描いたよう。ラトルの指揮は、もはや巨匠的で、少ない動きでLSOからとてつもない強烈な響きが生み出される。

 

ただ、これだけ磨き抜かれたブルックナーだが、自分が求めているものとの違いがあり、圧倒されながらも、唯一無二の忘れられない体験の「感動」をあまり覚えなかった。

 

個人的にこれまで聴いた中で、自分の求めるものに近かったのは、ヘルベルト・ブロムシュテット、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の7番だ。

その特長は以下の通り。

ひとつは「純粋」さ
ふたつに響き。深く、しっとりとした音。影のある弦と木管の音。落ち着いた金管のいぶし銀の音。
みっつには、滔々と流れる大河のように、広く大きな世界

 

ラトルとLSOの演奏をふりかえってみる。

第1楽章

提示部

チェロの剛毅な響き。第2主題の弦は清澄だが、どこか現代的な感性がある。繊細な弱音が素晴らしい。コントラバスのピッツィカートがよく響く。

低弦の刻みが重々しく、第3主題に入る。頂点はねばらず、あっさりとしている。

第3主題の再現、シンプル。ドイツ的な重厚で奥行きのある響きではない。

 

展開部

木管がクリア。フルートの響きが美しい。ヴァイオリンの第2主題が美しい響き。

休止の後の頂点、強烈だがドイツ、オーストリア的な伝統的な響きとは異なる。

 

再現部

ヴァイオリンの第1主題は明るい響き。クラリネットの第2主題がいわゆるドイツ語の味わいとは違う感覚。

チェロの厚みがすごい。

 

磨き抜かれたヴァイオリンだが、どこかメタリックな質感がある。

第3主題の金管の厚みはすごい。

 

テンポを落とした後のチェロの音が新鮮。初めて聴く音。形容する言葉がみつからない。

 

第2楽章 アダージョ

A-B1-A2-B2-A-コーダ

A 第1主題。初めて聴く響き。印象は「フレッシュ」、洗い流されたように新鮮な音。

ヴァイオリンが超絶うまい。

 

B1 第2主題。これまた新鮮な音。弱音が美しい。クリスタルと形容できる音。

 

A2 展開部。ここは凄かった。絶対音楽的で、何者も寄せ付けないそそり立った岸壁のよう。磨き抜かれた音。シベリウスに通じるような感じがした。クライマックスは厳しい。これがブルックナーと言えるのだろうか?

 

B2 第2主題の再現。弦の透明感、磨かれた音。コッホのオーボエがうまい。

 

A 輝きの頂点に向かっていく。天国へ向かっていくようだが、どこか覚醒している。シンバルとトライアングルのクライマックスには違和感がある。何か違う。ブルックナー的ではない(具体的な言葉は浮かばない。感覚的な違和感)

ワーグナーテューバとホルンによるワーグナー追悼は完璧だった。

 

コーダ もう少し余韻がほしい(具体的に何が足りないか言えないが)。

 

第3楽章スケルツォ

見事に鳴りきる。オーケストラが力強い。完璧だ。しかし、心は動かされない。なぜだろう。

 

トリオ きれいな響き。こんなにきれいなトリオは初めて。でも感動しない。

 

スケルツォ再現 音の大伽藍。その点は素晴らしかった。

 

第4楽章 快速に、しかしあまり速くなく

第2主題は速めのテンポ。木管が超絶うまい。 第3主題、金管の厚み言うことなし。ヴィオラの対位旋律が切れ味あり。オーボエうまい。

 

コーダ前の全管弦楽の咆哮!ここは本当にすごかった!今日の演奏の白眉。

休止!

 

コーダへ向かう。壮大な響きが鳴り渡り、空に消えた。瞬間、余韻を破る拍手が2,3人に起こる! 

ラトルは下げかけた両腕を再び上げ、余韻をつくろうとするが、あきらめたように下ろした。2日のミューザ川崎に続き、今日もフライングがあったのは残念。

 

演奏全体を時系列で振り返ると、ラトルLSOの創るブルックナーの響きと、自分が求めるものとの差異があることがわかる。

それが指揮者とオーケストラの解釈であり、個性であり、その違いを謙虚に味わうことを心掛け、7日の東京芸術劇場でもう一度聴いてみたい。


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