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Channel: ベイのコンサート日記
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R.シュトラウス《サロメ》 ノット 東響 グリゴリアン、トマソン、ヴェイニウス他

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(11月20日・サントリーホール)

アスミク・グリゴリアンサロメ、サントリーも凄かった。あえて比較すれば、最後の「ヨカナーン わたしはお前の口にキスをした」はミューザ、ヨカナーンに迫る場面、ヘロデに首を所望する場面はサントリーか。
しかし、それも微妙な差であり、全体のレベルは言葉を越えた素晴らしさ、凄さが2日間とも維持された。グリゴリアンは現時点では、世界最高のサロメ役と言えるのではないだろうか。

ヨカナーントマス・トマソンは2日間とも同じハイレベル。ほとんど差はなかった。

威厳のある声とヨカナーンにぴったりの体躯。


ヘロデミカエル・ヴェイニウスはサントリーの方がより素晴らしかった。声が一段と出ていた。ヘロディアスターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーはほぼ同じ。
 

オペラで第一声を放つため、オペラ全体の出来に影響が大きい大事な役ナラボート岸浪愛学は、鈴木准が急病で降板した代役をよく務めた。カバー役としてナラボートの譜面を読み込んでいたことが幸いした。

 

東京交響楽団はミューザよりもさらに引き締まった音になっていた。サントリーホールのサイズに合せるため、当日リハーサルを行い、音のバランスを調整したことが効を奏した。

 

第3場最後のサロメとヨカナーンの対話(本当にスリリングだった)のあとの、間奏曲的な大管弦楽の色彩、迫力は素晴らしかった。

 

R.シュトラウスの管弦楽の緻密さ、色彩、スケール感をここまで実現するジョナサン・ノットの力は偉大だと言わざるを得ない。また要求に応える東響も素晴らしい。

 

第4場「七つのヴェールの踊り」は管弦楽のみ。最後が凄かった。

踊ったあとのサロメがヨカナーンの首をヘロデに所望し、頑としてきかないサロメ(グリゴリアン)の迫力たるや!

Gib' mir den Kopf den Jochanaan! 「ヨハネの首をくださりませ!」は、「今すぐヨハネの首を差し出せ!」くらいの凄み。誰もサロメ、グリゴリアンを止められない。そのあとの世界が崩落するような管弦楽も凄い。

 

サロメがヨカナーンの首を待っている間奏でられるコントラバスの音が不気味さを倍増させる。首を切る音なのか、ナタの刃を研ぐ音か、サロメの動悸か?
ひとつだけ、ミューザと異なっていたのは、一瞬の静寂の後、ヨカナーンの首が落ちる音を、ミューザでは楽員全員がドンと床踏み鳴らし、ぞっとする効果が出ていたが、サントリーでは採用しなかった。その理由はわからない。

 

ヨカナーンの首は赤い布を丸めたものを持ってくることで表した。ここから先はこのオペラのクライマックス。サロメ、グリゴリアンの独壇場となる。

サロメが首を持ち、ヨカナーンへの思いの丈、恨みつらみをぶちまける場面の音楽は、「トリスタンとイゾルデ」のように陶酔感、官能性と共に、異様な場面の持つ迫真性があり、聴く者は文字通りどこかへ運ばれてしまう。一昨日のミューザで、ある種の記憶喪失のような状態に陥ったのはここから先だ。

グリゴリアンの歌唱は、弱音から強音まで滑らかで無理がなく、大管弦楽にも負けない。

 

最後のサロメ、グリゴリアンの絶唱

Ich habe deinen Mund geküsst, Jochanaan.

Ich habe ihn geküsst, deinen Mund.

ヨカナーン わたしはお前の口にキスをした。

お前の口にキスした。
 

は、ミューザよりは少しは冷静に聴けたが、こみ上げてくる感動、涙、震えはどうしようもない。

 

ヘロデ王の「あの女を殺せ!」の絶叫の後、管弦楽の最強音が4度鳴らされ、暗転。


その後に起こった拍手の大きさは近来聞いた記憶がない激しさ。

カーテンコールは何度あったのだろう。7回?8回?9回?

 

ブラヴォ、ブラヴァ、ブラヴィが飛んだのもむべなるかな。

 

これだけの「サロメ」をミューザとサントリーの二度も聴けた幸運をただ感謝するのみ。

■出演

指揮:ジョナサン・ノット

演出監修:サー・トーマス・アレン

サロメ:アスミク・グリゴリアン

ヘロディアス:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー

ヘロデ:ミカエル・ヴェイニウス

ヨカナーン:トマス・トマソン

ナラボート :岸浪愛学

ヘロディアスの小姓: 杉山由紀

兵士1:大川博

兵士2: 狩野賢一

ナザレ人1:大川博

ナザレ人2:岸浪愛学

カッパドキア人:髙田智士

ユダヤ人1:升島唯博

ユダヤ人2:吉田連

ユダヤ人3:高柳圭

ユダヤ人4:新津耕平

ユダヤ人5:松井永太郎

奴隷:渡邊仁美

管弦楽:東京交響楽団

 

■曲目

R.シュトラウス:歌劇「サロメ」全1幕(演奏会形式・ドイツ語上演・字幕付)

 

NEWS!
来年は「エレクトラ」が予定されている。
『音楽監督ジョナサン・ノットと東京交響楽団が、2022年より3年プロジェクトとしておおくりするR.シュトラウスのコンサートオペラシリーズ。第2弾は「エレクトラ」です。

 

タイトルロールにはまさに当たり役として世界にその名を轟かせるクリスティーン・ガーキが務めます。さらに名歌手ハンナ・シュヴァルツ、今年8月のグラフネック音楽祭でカウフマンの相手役として一躍注目を集めたシネイド・キャンベル=ウォレス、熟練のフランク・ファン・アーケン、今年5月定期・川崎定期のウォルトン「ベルシャザールの饗宴」においてその深い歌声で魅了したジェームス・アトキンソンが揃い、ベテランから気鋭の若手まで今まさに第一線で活躍する歌手陣で臨みます。「サロメ」に続き、サー・トーマス・アレンが演出監修を務めます。』

詳しくは下記に。

お知らせ | 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA


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