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オーケストラ・ニッポニカ 設立20周年記念連続演奏会II(第41回演奏会)

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(12月11日・紀尾井ホール)

曲目:

藤家溪子「思い出す ひとびとのしぐさを」(1994)

藤倉大「オーケストラのための《トカール・イ・ルチャール》」(2010/2011)

糀場富美子「未風化の7つの横顔~ピアノとオーケストラのために」*( 2005)

諸井三郎「交響曲第2番」(1938)

 

指揮:野平一郎

ピアノ:阪田知樹*

管弦楽:オーケストラ・ニッポニカ

 

故芥川也寸志の志を継ぎ、日本人の交響作品を積極的に演奏、紹介してきたオーケストラ・ニッポニカ。設立20周年記念連続演奏会IIが開催された。


藤家溪子(ふじいえけいこ)「思い出す ひとびとのしぐさを」(1994)は、日本の管弦楽作品を残すため、岩城宏之が私費で委嘱料を負担し、オーケストラ・アンサンブル金沢で初演し、CDにする活動の一貫で作曲された。全部で15名もの作曲家に依頼したという。今日の指揮者野平一郎もその一人。

 

チリの女流詩人ガブリエラ・ミストラルの「飲む」というタイトルの詩にインスパイアされた作品。エネルギッシュで、ガムランの要素など民族音楽的な部分もある。突き抜けたような面白さのある曲だった。
音源がyoutube↓にあった。初演者である岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏。

Keiko Fujiie: Beber - for chamber orchestra (1994) - YouTube

 

藤倉大「オーケストラのための《トカール・イ・ルチャール》」(2010/2011)はエル・システマの創設者ホセ・アントニオ・アブレウ博士とグスターボ・ドゥダメルに献呈された。

タイトルはエル・システマのモットー『Tocar y Luchar(Play and Fight)奏でよ、そして闘え』からきている。

藤倉大は『曲のコンセプトは魚や鳥をモチーフに、小さな鳥たちが集まって巨大な一羽の鳥を形づくることをイメージした』と語る。

藤倉の作品は、作曲年代が新しいということもあるが、全部のプログラムの中で、響きのセンスが圧倒的に優れている。世界中で彼の作品が評価されている理由がよくわかる。4つの部分からなるが、最後の金管と打楽器で盛り上がって行くところは、巨大な鳥が羽ばたいていくようでもあった。
音源がyoutube↓にあった。

Dai FUJIKURA - Tocar y Luchar for orchestra - YouTube

 

糀場富美子(こうじばともこ)「未風化の7つの横顔~ピアノとオーケストラのために」*( 2005)は、広島生まれの糀場が、今一度「原爆」に真正面から目を向けたという作品。7つの楽章からなる。冒頭と最後は、ピアノとチューブラーベルが鎮魂の鐘を鳴らす。

ピアノは阪田知樹。野平一郎が高く評価しているピアニスト。阪田自身、日本の作曲家の作品を取り上げることに積極的で、野平一郎の師匠の作曲家永富正之の作品展でも弾いてくれたと、「音楽の友」のインタビューのさいに話してくれた(文字数の関係で記事にはならなかった)。永富正之は阪田知樹の先生でもあるので、弟子同士の共演でもある。

ピアノ協奏曲ほどソロが活躍する作品ではないが、第4楽章はピアノのカデンツァ。また第5楽章はピアノとオーケストラが激しくやり合う場面もある。これらの楽章での阪田知樹の演奏は、リストで聴かせるようなスケールの大きなヴィルトゥオーソぶりを発揮する。阪田の演奏は、作品に大きな輝きを与えていた。

会場には糀場富美子も来ており、演奏後野平一郎がステージに招き、阪田と握手を交わした。

youtube↓には糀場富美子がピアノソロのために編曲したバージョンがあった。
糀場富美子:未風化の7つの横顔 (ピアノのために) - YouTube

 

後半は、諸井三郎「交響曲第2番」(1938)

作曲の動機は1937年に起きた日本軍と中国国民革命軍との衝突「盧溝橋事件」。

『この戦争と日本及び日本人の現在から将来に亘(わた)っての運命との関係に対する私の予感的な感情の表現である』と帝國大学新聞に寄稿しているが、不幸にもその予感は的中してしまった。

 

全体に暗い曲想であること、旋律というよりも動機的な主題労作が延々と40分続く印象で、正直言って音楽的な面白さは少ない。プログラム解説(いつもながら詳細極まる内容)には

『各楽章の形式は、ヨーロッパ後期ロマン派の音楽様式、形式に立脚し、複合的で堅牢な構成を持っています。主題の循環形式、模倣的なポリフォニックの技法、動機の変容と展開など、教科書的とも言うべき明晰さを実現しています』とあるが、この「教科書的」という言葉は言い得て妙だと思う。

 

本音を書けば、作品そのものよりも、野平一郎とオーケストラ・ニッポニカの熱い演奏により、40分耐えられたとも言える。指揮者とオーケストラの集中度と熱量の高さが必要とされる作品なのかもしれない。

 

この曲もyoutube↓にある。 山岡重信指揮読響の演奏。

諸井三郎:交響曲第2番 - YouTube

 

 

次回の演奏会は来年3月25日。野平一郎の新作も予定されている。

 

設立20周年記念連続演奏会III(第42回)

2023年3月25日(土)14時30分開演 紀尾井ホール

指揮:野平一郎 

 

山田耕筰 交響詩 曼陀羅の華 1913

永冨正之 1楽章の交響曲 1963/67 日本初演

武満徹 冬 1971

石井眞木 雅霊  1989

野平一郎 設立20周年記念委嘱作品 世界初演


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