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Channel: ベイのコンサート日記
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小林研一郎 千住真理子(ヴァイオリン) ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団

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(1月16日・サントリーホール)

ハンガリー国立フィルを聴くのはなんと49年ぶり!1974年3月14日、名古屋の中日劇場という、2018年に閉館した演劇や芸能中心のホールで聴いて以来。当時の名称は「ハンガリー国立交響楽団」。指揮は首席指揮者のヤーノシュ・フェレンチクで、その時のプログラムは下記の通り。
 

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

バルトーク:ピアノ協奏曲第3番(ジュラ・キシュ)

ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調「英雄」


メインの≪英雄≫第2楽章のオーボエのソロがとても良かったので、楽屋にオーボエ奏者を訊ねた。当時英語はほとんどできなかったので、何を話したことやらよく覚えていない。ただ、オーケストラに同行している関係者のおばさまから、「あなたはプレイヤーなの?」と聞かれ、「いえ、ただのリスナーです」とは答えられた。指揮のフェレンチクとも帰り際一緒になったので、握手してもらった。

 

今夜のハンガリー国立フィルの翳りのある音を聴いて、当時の響きを思い出した。まさにこんな音だった。オーケストラの響きが50年経っても変らないことに驚く。今のオーボエは女性だが、当時彼女は生まれていたかどうか。

 

小林研一郎はハンガリーでは有名人だ。23年前ロンドンで会ったハンガリーから来た若い女性が、日本人ではケンイチロウコバヤシを知っていると話してくれた。小林は1987年から97年までハンガリー国立フィルの首席指揮者を務めた。楽員の中には当時からのメンバーも残っているかもしれないし、聴衆として小林の指揮を聴いたという団員も多いだろう。

 

1曲目、ベートーヴェン「《エグモント》序曲」は、東欧のオーケストラに共通する暗く重い音で重厚に演奏された。オーケストラは14-12-10-8-6。チェロが上手、手前に並ぶ。

 

千住真理子によるブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」は遅めのテンポで、フレーズひとつひとつを丁寧に弾いていく。ハンガリー国立フィルも重く厚みのある音でつける。小林研一郎の協奏曲の指揮は、これまで何度も聴いたが、ソリストにぴったりとつけるきめ細かさがある。今夜も同様で、千住にとっては弾きやすかったのではないだろうか。ただ、千住の表情やテンポがあまり変わらないので、演奏がやや単調にも思えた。

千住のアンコールは「アメイジング・グレイス」。技巧的な難しさはなかった。

 

後半はドヴォルザーク「交響曲第9番《新世界より》」

小林研一郎の解釈自体はいつもと変わらない印象。じっくりと歌わせるところは大きく歌い、激しいクライマックスはより激しく情熱的に進めていく。ハンガリー国立フィルの金管はパワフルであり、木管や弦の暗めの音は味わいがある。日本のオーケストラとの違いを聴くことは興味深かった。

 

第1楽章展開部の金管が強力。コーダのホルン、トランペット、トロンボーン、テューバの斉奏も激しい。

 

第2楽章のイングリッシュ・ホルンのソロはどこかひなびた音。中間部のフルート、オーボエやコントラバスのピッツィカートも陰りがある。ヴィオラのトレモロが何とも言えないふくらみとほの暗さがあり魅力的。こうした音を日本のオーケストラで聴くことはまずないと思った。イングリッシュ・ホルンの二度目のソロはとても繊細。コンサートマスター、ヴィオラ、チェロ各首席の三重奏も温かい。

 

第3楽章スケルツォも、ほの暗い雰囲気。第1トリオのフルートとオーボエ、クラリネットも温かく味わいがある。第2トリオの民族色はあまり感じられない。第1トリオの再現での弦のトレモロに厚みがあった。

 

アタッカで入った第4楽章。全管弦楽による序奏は分厚い。トランペットとホルンによる第1主題は気持ちよく鳴る。第2主題では低弦の対旋律がはっきりと聞こえてくる。クラリネットの抒情的な旋律はまずまず。チェロが装飾する音に深みがあった。

 

スラヴ風の舞踏リズムではホルンが盛大に吹かれた。提示部最後のヴィオラの刻みが美しい。
 

これまで出てきた各主題が回想される展開部は、低弦が分厚い。

トランペットの主題が明瞭に示され、再現部に入って行く。小林は再現部をじっくりと攻めた。コーダのクライマックスは盛り上がったが、圧倒的な迫力にはもうひとつ。ツアー初日の疲れもあったのかもしれない。

 

アンコールはブラームス「ハンガリー舞曲第5番」。小林はマイクを持ち、通常の演奏の例を紹介しますと話し短く演奏した後、ハンガリー国立フィルバージョンと言うべき、ためをたっぷりととった民族色豊かな演奏を披露した。外連味たっぷりの演奏に場内は大いに沸いていた。


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