(6月29日・サントリーホール)
ショパン ピアノ協奏曲第2番
チョ・ソンジンのピアノは、ピュア。蒸留水のよう。素直で癖がなく、虹色のような繊細な色彩感があり、高音も玉を転がすような輝きが魅力。ショパンの理想的な演奏のひとつ。山田和樹バーミンガム市交響楽団の演奏は、日本のオーケストラ的なしっとりとした響きがある。海外のオケに良く聴くドライさや、パワフルな強音、分厚い響きとはどこか違う。山田の持つ音なのかもしれない。
チョのアンコール、ラヴェル「道化師の朝の歌」は凄かった。文字通り多彩な音とタッチが次々と繰り出される。グリッサンドも繊細。聴いたことのないラヴェル。圧巻。参りました。
エルガー「交響曲第1番」
尾高忠明以外の指揮でエルガーの交響曲を聴くのは初めて。山田和樹のエルガーはイギリス的な威風堂々とした部分もあるが、もう少しフレッシュ。明るくバイタリティがあり、華々しい。バーミンガム市響にとってはお国ものであり、多分山田よりも演奏の経験は多いはず。第4楽章の最大の高揚部分の壮麗さ、特に金管の輝かしさはイギリスのオーケストラならではのパワーが全開していた。
第1楽章は作品自体が錯綜、混乱気味の手法で書かれているとはいえ、山田にはもう少し整理して明解に聞かせてほしかった。その一方で、山田がプレトークでスター・ウォーズみたいだと話した第2楽章の行進曲の勇壮さと 、山田が「時間が止まったみたいだ」と話した第3楽章の神秘的とも言える静謐さ、霧で霞むような雰囲気は新鮮だった。
第4楽章のコーダは先に書いたように、第1楽章冒頭のモットー主題(全体を貫く循環主題)が再登場し、行進曲の動機その他と対位法的に渾然一体となる。そのエネルギーの噴出は今日の白眉。正直言って、ここに至るまでのバーミンガム市響の演奏は、アンサンブルの緻密さがもうひとつだったが、ここに来て本領を発揮した。山田も渾身の指揮。終わるや否や大歓声が起きた。
アンコールはウォルトン「映画《スピット・ファイア》より前奏曲とフーガ」。サントリーホールのアンコール情報では前奏曲だけで、フーガは入っていなかった。実際にはフーガまで演奏したと思う。もし間違っていたらご指摘ください。
エルガーの威風堂々にも通じる勇壮な音楽。これも大うけ。バーミンガム市響は山田の指示で、LA席、P席、RA席に向かって全員で礼。サントリーホールの客層はチョ・ソンジン・ファンの女性中心に若い人が多く、両手を挙げて拍手する人がほとんど。山田はこれには感激の様子だった。
バーミンガム市響はとても暖かい雰囲気。最後は全員手を振ってさよならしていた。
山田和樹のソロカーテンコールとなった。