(3月6日、オーチャードホール)
マリア:ジュリア・ブロック
トニー:ライアン・シルヴァーマン
アニタ:アマンダ・リン・ボトムス
リフ:ティモシー・マクデヴィット
ベルナルド:ケリー・マークグラフ
アクション:ザカリー・ジェイムズ
A-ガール:アビゲイル・サントス・ヴィラロボス
ロザリア:竹下みず穂
フランシスカ:菊地美奈
コンスエーロ:田村由貴絵
ディーゼル:平山トオル
ベビー・ジョン:岡本泰寛
A-ラブ:柴山秀明
ジェッツ、シャークス:東京オペラシンガーズ
ガールズ:新国立劇場合唱団
海外からの歌手陣が素晴らしい。キャラクターを知り抜いた表現力と表情が豊かで、装置もなく、踊りもほとんど見られない演奏会形式にもかかわらず、ぐいぐいとドラマに引き寄せられていく。
PAを使用していたが、N響にもPAを薄く使っていた。多少音が大きく感じることもあったが、許容範囲内。
ヤルヴィ&N響にとって、ジャズやブルース、マンボ、など変拍子の多い「ウエスト・サイド・ストーリー」は、ふだん接しているクラシックと異なり、演奏しづらかったのではないだろうか。ジャズのスイングの裏打ちリズム、マンボやチャチャチャのリズム、ブルースの中抜きのリズム、「アメリカ」におけるヘミオラ(混合リズム)など、どこか不慣れで、「ノリ」が良くないという印象があり、やや違和感があった。ドラムスやベースの音と、オーケストラが合わないこともあった。
ただ、金管や木管、弦の音響自体はゴージャスなので、そうした不満はいくらか解消される。また、「ランブル(決闘)」などテンポの速い高揚する部分や、「エピローグ」のように、静謐な箇所は、ヤルヴィ&N響ならではの完成された演奏が展開されていた。最後の「エピローグ」の音が消えてから、ヤルヴィが完全にタクトを下すまで聴衆の静寂が保たれたことも、余韻を深めた。
個々の歌手としては、マリアのジュリア・ブロックと、トニーのライアン・シルヴァーマンが主役にふさわしい歌唱と表情。二人が歌う「トゥナイト」はやはり感動的。歌唱の深さでは、アニタのアマンダ・リン・ボトムスが一番だった。ある種の威厳さえ感じさせる存在感は出色。リフのティモシー・マクデヴィットも切れ味があった。アクションのザカリー・ジェイムズも、「ジー、オフィサー・クラブキ(まあ、クラブキ巡査)」でいい味を出した。
「ウエスト・サイド・ストーリー」の中でもきっての名曲と言っていい「サムホエア」は、映画のようにトニーとマリアが歌うのではなく、ブロードウェイ版は、二人が夢見る敵味方のないダンスシーンで、A-ガールの声として舞台裏から聞こえてくる。今回の「シンフォニー・コンサート版」もソロで歌われたが、アビゲイル・サントス・ヴィラロボスの歌唱は清らかだった。
国内からの歌手陣、コーラスについては、健闘していたが、外観や体格、歌唱力と表現力で、大きな差を感じた。
いずれにせよ、レナード・バーンスタイン生誕100周年に、こうした意欲的な公演が行われたことの意義は大きい。バーンスタインと演出・振付のジェローム・ロビンズ、脚本のアーサー・ローレンツ、歌詞のスティーヴン・ソンドハイムの4人がメインとなって完成した「ウエスト・サイド・ストーリー」の音楽性の高さを、今回改めて知る機会となった。