(3月16日、サントリーホール)
ハンガリーから来日する予定だったヘンリク・ナナシが急病のため、ドイツの主要歌劇場で指揮、ボン・ベートーヴェン管弦楽団とボン歌劇場の首席指揮者も務めたステファン・ブルニエが代役で登場した。
代役が奇跡的な成功を収めるというサクセス・ストーリーには至らないが、手堅い指揮で立派に役目を果たした。
ブゾーニ編のモーツァルト歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲は、トロンボーンが3本加わり、騎士長登場の主題を大きく奏でた後、フィナーレの六重唱の旋律で最後を締めるというもの。変更部分は劇的で、序曲とは思えないが、興味深く聴いた。
ルノー・カプソンのヴァイオリンは、やはり本当に素晴らしい。今回の来日でのリサイタルは聴けなかったが、5年前トッパンホールで聴いた記憶がよみがえった。ブルゴーニュ・ワインの芳醇な香りが、サントリーホールにも広がるようだった。ブゾーニのヴァイオリン協奏曲という、最近再評価が進む作品だったが、夢見るような中間部から、コーダはカプソンの美音に酔いしれた。
アンコールのグルック(クライスラー/カプソン編)「オルフェオとエウリディーチェ」から「精霊の踊り(メロディ)」の、繊細を極めた音は忘れられないものとなりそうだ。
後半のR.シュトラウス、交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」は、巨大な編成のオーケストラを一手に引き受け、ブルニエとしても、思い切った指揮はしづらかったのではないだろうか。まったく破たんのない、オーソドックスな演奏に終始していたが、「舞踏の歌」後半から「さすらい人の夜の歌」の頂点に向かうクライマックスは盛り上がった。オルガン奏者の音の切り方が、実に鮮やかで、見た目にも決まっていた。