(4月11日、東京文化会館小ホール)
テノール:クラウス・フロリアン・フォークト
ソプラノ:シルヴィア・クルーガー
ピアノ:イェンドリック・シュプリンガー
■曲目[Sはソプラノ、Tはテノール]
ブラームス:
太陽はもう照らない [S&T]
かわいい恋人よ、素足で来ないで [S&T]
日曜日 op.47-3 [T]
眠りの精 [S]
シューベルト:《美しき水車屋の娘》 D795 より [T]
とまれ
水車屋の花
いらだち
ブラームス:
ああ、お母さん、欲しいものがあるの [S]
お姉さん、私たちはいつ家に帰るの [S&T]
甲斐なきセレナーデ op.84-4 [S&T]
カールマン:燕のデュエット(喜歌劇《チャールダーシュ侯爵夫人》より)[S&T]
(休憩)
モーツァルト:なんと美しい絵姿(歌劇 《魔笛》K.620 より) [T]
プッチーニ:私のいとしいお父さん(歌劇 《ジャンニ・スキッキ》 より)[S]
レハール:
君はわが心のすべて(喜歌劇 《ほほえみの国》 より)[T]
愛は地上の天国(喜歌劇 《パガニーニ》 より)[S]
だれも私ほどおまえを愛した者はいない(喜歌劇 《パガニーニ》 より)[S&T]
ロイド=ウェバー:スィンク・オブ・ミー(ミュージカル 《オペラ座の怪人》 より)[S]
バーンスタイン:ミュージカル 《ウェスト・サイド物語》 より
マリア [T]
トゥナイト [S&T]
アンコール:
ブラームス:谷の底では[S&T]
レハール:友よ人生は生きる価値がある(喜歌劇《ジュディッタ》より)[T]
ブラームス:子守唄[S&T]
楽しく、ほっとする温かい歌曲の夕べだった。クラウス・フロリアン・フォークトは5日の「ローエングリン」のあと発熱し、8日の再演は危ぶまれたが歌い切ったという。今夜も体調は万全ではなかったように感じたところがわずかにあったが、誠実に精一杯歌う姿勢のほうが勝っていた。
フォークトが奥様のシルヴィア・クルーガーとむつまじくデュエットする曲はどれもチャーミング。「かわいい恋人よ、素足で来ないで」の“トゥラララ♪”と二人が交互に歌うところは、本当にかわいらしい。
フォークトのソロ、シューベルトの《美しき水車小屋の娘》の3曲はさすが。「水車屋の花」の脆さ、「いらだち」で“Dein ist mein Herz und soll es ewig bleiben”(わが心はきみのもの、とわに変わらじと)が楽節ごとに歌い上げられると、胸を打たれる。ピアノのイェンドリック・シュプリンガーの伴奏も自然で、とてもよかった。
ソプラノのシルヴィア・クルーガーは、「眠りの精」のような優しい曲や、「ああ、お母さん、欲しいものがあるの」のように笑いを誘う曲は、表情豊かに歌い聴いていても心癒されるが、プッチーニ「私のいとしいお父さん」やレハール「愛は地上の天国」のように声を強く出す曲では、少しキンキンする。これは、前から二列目中央という席に座ったためもあるだろう。クルーガーはロイド=ウェバー「スィンク・オブ・ミー」を英語ではなくドイツ語で歌った。《オペラ座の怪人》がドイツでも大ヒットしていることをうかがわせる。
バーンスタイン生誕100年にちなんだのか、「ウエスト・サイド・ストーリー」から2曲歌われた。ささやくように歌い始められるフォークトの「マリア」は、優しさの極み。「トゥナイト」の最後、二人が静かに“Dream of me...Tonight”とディミヌエンドしていくバックに「サムホエア」の旋律がピアノに出る部分は、大きな感動を呼ぶ。
その「サムホエア」をアンコールで歌ってほしかったが、フォークトが「この素敵なホールで皆様のような素晴らしい聴衆に囲まれ再び歌うことができ本当に幸せです。」と前置きし、心癒される讃美歌のように、ブラームス「谷の底では」が二人に歌われた。
やまない拍手に、フォークトが一人で登場。レハール「友よ人生は生きる価値がある」(Freunde, das Leben ist lebenwert)が、高らかに歌われた。それは渾身の歌唱とも言うべきドラマティックな出来栄えであり、オペラ歌手フォークトの面目躍如。もちろん客席は大喝采。喜歌劇《ジュディッタ》はレハール最後の作品で、テノールの出番も多く、この曲は単体で歌われることも多いという。
最後に二人が登場し、「私たちからのささやかなギフトがあります。皆様のご帰宅がご無事でありますように、ブラームスの子守唄を歌います。でも本当に眠らないようにしてくださいね」と場内の笑いを誘ったあと、名残り惜しむように、二人は第1節を静かに歌った。
写真:クラウス・フロリアン・フォークト&シルヴィア・クルーガー facebookより