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Channel: ベイのコンサート日記
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エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ) シューベルト・ツィクルスVI 

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414日、東京文化会館小ホール)

 エリーザベト・レオンスカヤのシューベルト「ピアノ・ソナタ」全曲ツィクルスは、全6回のうち最終日のみチケットを買った。3年前東京春祭で聴いたシューベルト後期三大ソナタの名演を超える演奏はあり得ないだろう、少し衰えたレオンスカヤを見るのも辛い、と思ったためだった。
そのときのレヴューはここに。

https://ameblo.jp/baybay22/entry-12008184011.html

 

 実際の演奏を聴くと、それは全くの杞憂であり、レオンスカヤに失礼な先入観だった。ただし前半の演奏に関しては、という留保がつくが。

 

1曲目「ピアノ・ソナタ第11番ヘ短調D625」から、好調な滑り出し。身体全体を柔らかく使って、低音は轟くように響かせ、高音は潤いがあり瑞々しい。第1楽章の第2主題は美しく、第2楽章スケルツォのトリオは、雲の切れ間から太陽の光が差し込むよう。今回第3楽章にニ長調アダージョD505を充てたが、後期のソナタに通じる天国的な世界を感じる。第4楽章第2主題や展開部は歌心に満ち伸びやかに奏でられた。

 

2曲目「幻想曲ハ長調D760《さすらい人幻想曲》」は、3年前の演奏を凌駕した。

冒頭の主和音から強烈なヴォリュームで打鍵、そのエネルギーと力強さに圧倒される。

2楽章アダージョの「さすらい人」の主題に続く5つの変奏はいずれも素晴らしい。特に、64分音符の細かな下降音型がどんどん膨張していく第4変奏のクライマックスはぞっとするほどの迫力があった。第3楽章スケルツォもスケールが大きく、コーダの打鍵は強烈。
 対位法的に進行していく第4楽章は、この日の演奏の白眉だった。火の玉となって邁進するがごとく、レオンスカヤの凄まじい気迫が込められた強烈な音が会場を震わせる。ツィクルス全部を聴いていなくとも、この《さすらい人幻想曲》が、全曲演奏の頂点だと確信させるものがあった。ペダルをしっかり使い、芯がある豊かな響きの強音はスケールが大きく、これぞ巨匠の至芸!と叫びたくなる。

 

やはり全曲ツィクルスを聞き逃したのは痛恨の極みだったかかもしれない、と後悔しながら、最後の曲、ソナタ第21番変ロ長調D960に臨む。

1楽章モルト・モデラートの主題が朗々と開始される。しかし、レオンスカヤはまるで魂の抜け殻のように精彩がない。正しく音は鳴っているのだが、霊感が感じられない。何が起きたのか?

提示部の繰り返しが始まると、やっと音楽に血が通い始めた。そうか、繰り返しに意味をもたせるという意図があったのか、と安心したのも、つかの間、展開に入るとまた元の生気のない演奏に戻ってしまう。そして、そのまま二度と霊感が戻ることはなかった。

レオンスカヤも人の子、前半で燃え尽きてしまったのだろう。それでよかったと思う。もし、後半も《さすらい人幻想曲》と同レベルの演奏を続けたら、レオンスカヤは倒れたかもしれない。

 

アンコールの「4つの即興曲D899」から第2番変ホ長調と、第3番変ト長調は、生気が再び戻り、本当に美しく弾かれた。

 

拍手の中、東京・春・音楽祭実行委員長、鈴木幸一氏が花束を持って登場、レオンスカとハグし、彼女の健闘を讃えた。

NHKのテレビ収録があったので、いずれ放送されると思う。

 

写真:エリーザベト・レオンスカヤ(c)東京・春・音楽祭

 


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