Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

ガブリエラ・モンテーロ ピアノ・リサイタル

$
0
0

アンコールで、モンテーロは客席に向かい、『即興のテーマを誰か歌ってくれませんか。なんでもいいです。日本の歌でも、ポップスでも』と話しかけた。すると、『さくら!』という声があがり、モンテーロが「では歌ってください」というとその男性は、美しいバリトンで「さくら~さくら~」と歌い始めた。モンテーロはすぐ音をとり、しばらく旋律を奏でた後、即興を弾いた。鮮やかな手並みだが、どこかチック・コリアの「スペイン」を思わせる。続いてもう1曲と聞くと、今度は『ネッスンドルマ(誰も寝てはならぬ)!』という声が別の席からあがり、すかさずモンテーロは即興を始めるが、バッハの作品を思わせる対位法をちりばめて仕上げた。

 

客席は大盛り上がり。

以下はモンテーロのプロフィールがよくわかるウィキペディアの記述。

 

 『ガブリエラ・モンテーロ(Gabriela Montero)はベネズエラ、カラカス出身アメリカで活躍するピアニスト・即興演奏家。

父はベネズエラ人、母はアメリカ人。5歳で初めて公開演奏を行なう。8歳でベネズエラ青少年管弦楽団と共演し、演奏会デビュー。ベネズエラ政府より奨学金を得てアメリカ合衆国に留学。12歳でボールドウィン国民コンクールとAMSA青少年芸術家ピアノコンクールに入賞。

ロンドン王立音楽院に留学し、1995年に第13回ワルシャワ・ショパン国際ピアノコンクールにて銅賞を受賞した。

ウィグモア・ホールやケネディ・センター、テアトロ・コロン、ミュンヘン・ヘルクレスザール、ベルリン・コンツェルトハウスなどでリサイタルを行なってきたほか、世界の数々の音楽祭に招待されてきた。とりわけ、マルタ・アルゲリッチが主宰するルガーノやブエノスアイレスの音楽祭の常連として知られており、アルゲリッチ本人から稀有の才能の持ち主と評価されている。

モンテーロは、即興演奏の才能でも名高く、有名な作曲家の主題に基づく即興演奏や、ポピュラー音楽を大作曲家の作風で再構成することを得意としており、演奏会や録音でその能力を披露している。ただし、即興演奏や編曲の能力について、聴衆や評論家の評価は賛否両論に分かれている。

ショパン、リスト、グラナドス、スクリャービン、ラフマニノフといったヴィルトゥオーゾ向けの作曲家を得意とする一方で、バッハのクラヴィーア作品にも愛着を寄せている。』

 

ウィキペディアの記述にある『即興演奏や編曲の能力について、聴衆や評論家の評価は賛否両論に分かれている。』は、私も気になったところだ。

本日のプログラムは、

シューマン:子どもの情景

チック・コリア:チルドレン・ソングスより

モンテーロ:子どもの情景(即興)

ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第2

というもの。

 

さて、ここからは前半のプログラムもふりかえりつつ、私の感想を述べたい。

モンテーロの即興は、即興とは言えないのではないだろうか。ウィキペディアの記述にあるように『ポピュラー音楽を大作曲家の作風で再構成する』にすぎない。ベースになるパターンが数多くあり、その上に旋律を乗せながら弾いているように思える。

ジャズのインプロビゼーションよりも、形が出来上がっており、驚きや発見が少ない。もちろん、ジャズも、チャーリー・パーカーの即興を詳細に分析した理論書がバイブルのようにミュージシャンに読まれており、誰もがパーカーを一度は徹底的に研究したうえで、自分の個性を出しているのだが、モンテーロの即興はジャズほどの自由さを感じることはない。やはりクラシックを基本とする即興、それもどこかで聞いたハーモニー、フレーズ、形式が多いのではないだろうか。

 

シューマン「子どもの情景」は、第6曲「重大な出来事」まではテクニックで弾き飛ばすという印象。「トロイメライ」からソフトな表現になったが、旋律の先に入っていけないもどかしさ、音楽の深いところが感じられないものがあった。

休みなく、チック・コリア「チルドレン・ソングス」に入っていった。全曲ではなく、何曲かピックアップしていたが、曲名までは不明。モンテーロはやはりクラシック畑のピアニストであり、コリアのジャズのフィーリングを感じさせる演奏とは違うことだけはわかった。

 

モンテーロ「子どもの情景」(即興)は、「カラカスの朝」「おかしなオウムたち」「酔っ払い」「ホームシック」「母の子守歌」という各曲のタイトルがつけられている。

ジャングルを思わせる「オウム」、「酔っ払い」のユーモア、「ホームシック」の哀愁、「母の子守歌」のメリーオルゴールのような懐かしさ、はとてもわかりやすいが、エンタテインメント以上ではなかったような気もした。

 

 最後のプログラム、ショスタコーヴィチ「ピアノ・ソナタ第2番」は、テクニック的には完ぺきだが、ショスタコーヴィチの深み、恐ろしさ、抒情にはいま一歩。ただ右手だけで弾かれる主題が9つの変奏に渡って変化、深められていく第3楽章は彼女のテクニックの冴えがあり、とても良かった。

 

28日(土)、29日(日)とモンテーロは読響の定期演奏会(いずれも14時から。東京芸術劇場コンサートホール)に出演し、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を弾く。指揮はアジス・ジョハキモス。日曜日のコンサートに行くので、協奏曲での演奏が楽しみだ。アンコールで武蔵野のような客席のやりとりは難しいだろうが、実現したら楽しいことは間違いない。

 

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles