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Channel: ベイのコンサート日記
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フロリアン・ノアック ピアノ・リサイタル (武蔵野市民文化会館小ホール)

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514日、武蔵野市民文化会館小ホール)

 ピアニストにも様々なタイプ、志向があることをフロリアン・ノアックは1990年ベルギー生まれのフロリアン・ノアックの演奏を聴きながら考えていた。テクニックは申し分ないが、音楽を深く解釈し演奏するタイプとは少し違うことが、ラフマニノフ国際、ロベルト・シューマン国際の入賞はありながら、メジャーなコンクールでの優勝がない理由なのだろうか。

 

 ノアックは、リャブノフ、アルカン、メトネル、ドホナーニなどロマン派とポスト・ロマン派の作品演奏に力を入れることと、チャイコフスキー、ラフマニノフ、リムスキー=コルサコフのオーケストラ作品の編曲に力を注いでもいる。

 今日のプログラムも、ショパン「ピアノ・ソナタ第2番《葬送》」、ドビュッシー《映像第1集》より<水の反映>、《版画》より<パゴタ(塔)>、メトネル「3つの幻想的即興曲」と並んで、ボロディン(ノアック編)「歌劇《イーゴリ公》より<だったん人の踊り>」、リムスキー=コルサコフ(ノアック編)「シェエラザード組曲」という、自身の編曲した作品がメインを占める。

 

 ショパンは、よどむことなく滑らかに弾いていくが、第3楽章の「葬送行進曲」のトリオの旋律をとても美しく弾くことが印象的な以外は、正直なところ深みはあまり感じられない。ドビュッシーは、音色と奏法、タッチをがらりと変え、色彩感も素晴らしく、出来栄えがとても良かった。

 

 メトネルは得意とするだけあって、技術的には完ぺき。ただ、「ニクシー」「舞踏会」など、作曲者の感情面が深められていないのが気になった。テクニックは充分あるのだから、表現を深める方にどうして向かわないのか、もどかしさも感じる。しかし、「地獄のスケルツォ」のシニカルな表情がとても面白く、ノアックの別の顔を見た気がした。


 ボロディン(ノアック編)「歌劇《イーゴリ公》より<だったん人の踊り>」は、ピアノで多彩な音色を創っていくこと、オーケストラのハーモニーの重層的な響きをピアノで表現できている点に感心した。指の動きがとてもスムーズで、響きがコントロールされている。

 

 リムスキー=コルサコフ(ノアック編)「シェヘラザード組曲」は力演。ここでも様々な楽器の音色やハーモニーをピアノでセンスよく表現する。特に最後の「バクダッドの祭り、海、青銅の騎士の立つ岩での難破、終曲」でのテンポが速まり巨大なクライマックスを迎える中から旋律が浮かび上がってくる部分は圧巻。静かにピアニシモで終わる終曲の繊細な高音の響きも美しい。

 

 ドビュッシーで聴かせたように、いくらでも正統的な作品で勝負できると思うのだが、知られざる作曲家や作品の紹介と編曲という、王道を歩むピアニストとは違う道を選んだフロリアン・ノアック。清々しいステージ・マナーも好感を持った。彼の心意気と姿勢を応援したい。

 

 


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