(6月18日、武蔵野市民文化会館小ホール)
イノン・バルタナンは1979年イスラエル生まれ。2006年からニューヨークのハーレムの倉庫を改修した家に住む。
ニューヨーク・フィルの新進アーティスト育成システムでもあるアーティスト・イン・アソシエーションを3シーズン務めた。全米の主要オーケストラを始め、ゲヴァントハウス管弦楽団との共演のほか、東京都交響楽団とは二度共演している。
今日のプログラムはシューベルトとラフマニノフ、そして1975年イスラエル生まれの作曲家アヴナー・ドーマンの「楽興の時」。バルタナンのピアノには、ニューヨークのマンハッタンのペントハウスで聴く雰囲気が漂う。
シューベルトの「楽興の時Op.94D780」の歌謡性と抒情性は、クールでドライなものになり、どこかブルースやジャズに通じるような味わいがある。甘さや感傷性は少ない。
ドーマンの「楽興の時」、ラフマニノフ「楽興の時Op.16」のほうがその点バルタナンに合っていた。ラフマニノフの第1番から第4番はビル・エヴァンスのジャズの世界に通じるものがあった。
アンコールのシューベルト「即興曲Op.93-3」の抒情を押さえた表現、ゴトフスキ編曲の「シューベルト楽興の時第3番」の乾いたユーモアに都会的なピアニスト、バルタナンの個性が良く表れていた。
ヨーロッパ的なピアノを期待する向きには癖が強く、個性的なピアニストのため、シューベルトよりも現代曲が合う気がする。