曲目
J.S.バッハ/フーガ ト短調 BWV578「小フーガ」
ミサ曲 ロ短調 BWV232
出演
トン・コープマン[指揮・オルガン]
マルタ・ボス[ソプラノ]
マルテン・エンゲルチェズ[カウンターテナー]
ティルマン・リヒディ[テナー]
クラウス・メルテンス[バス]
アムステルダム・バロック管弦楽団
アムステルダム・バロック合唱団
冒頭トン・コープマンがオルガンでJ.S.バッハ「フーガ ト短調 BWV578《小フーガ》」を弾いた。聴衆が日常の雑事から離れられるのでは、というコープマンの意向。これが実に素晴らしい演奏だった。切れ味があり立体的。4声の対位法と対主題を伴う複雑な構造を目が覚めるほど明解に弾き分ける。唖然。終わった直後『すごーい!』という感嘆の声が上がったが、まったく同感。同じ声の主かどうか不明だが、「ミサ曲 ロ短調 BWV232」でも何度か声が上がっていた。それを非難するレヴューも多いとのことだが、個人的にはあまり気にならなかった。
「ミサ曲 ロ短調 BWV232」の演奏前に、コープマンはマイクを持ち、『この演奏を台風と地震の犠牲者に捧げます。札幌の公演は残念ながらキャンセルとなりました。今日が日本での最後のコンサートになります。』と告げた。胸が熱くなった。
「ミサ曲 ロ短調」の演奏は室内楽的なまとまりのよいもの。合唱は25名。発音がはっきりとしており、温かな声のハーモニーは聴きやすい。アムステルダム・バロック管弦楽団の演奏もとてもうまい。ナチュラル・トランペット3人とナチュラル・ホルンはオーケストラに溶け込み、前面に出てくることはない。テクニックは素晴らしく、音程も正確だ。
今回ステージに近い席がいいと思って、前から10列目中央を買ったが、もっと前の席だと細かな部分までさらにはっきり聞き取れたかもしれない。すみだトリフォニーホールの音響は悪くないが、アムステルダム・バロック管弦楽団&合唱団の演奏を聴くには、教会が一番合うのかもしれない。もっとも彼らは普段アムステルダム・コンセルトヘボウを主な会場としているのだろうが。
ソリストはソプラノ1&2をマルタ・ボス一人が担当したが、無理のない自然な発声がいい。カウンターテナー、マルテン・エンゲルチェズは第24曲「アニュス・デイ」のソロが胸に迫った。テナーのティルマン・リヒディも好演。バスのクラウス・メルテンスは悪くはないものの正直いまひとつの印象。
2011年12月8日東京文化会館で聴いたヨス・ファン・フェルトホーヴェン指揮オランダ・バッハ協会合唱団&管弦楽団による「ロ短調ミサ曲」 は15人による合唱がまるでソリスト15人によって歌われているかのように明瞭にそれぞれのパートが聞こえ、透明感にあふれた高度なポリフォニーが生まれていた。それはソリストが合唱も兼ねるコンチェルティストとリピエニストというバッハ時代の仕組みを採用していたためだ。 コンチェルティストはパートのリーダーでソロもコーラスも歌う。リピエニストはコーラスのみを歌う。
コープマンとアムステルダム・バロック管弦楽団&合唱団はそうした緻密さ厳格さはないものの、まろやかなハーモニーに包まれ温かく親しみがあり、すぐ隣にある音楽のように聞こえた。