(2月10日、トッパンホール)
ラモン・オルテガ・ケロは2007年、難関のARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝。1961年のハインツ・ホリガー、1967年のモーリス・ブルグ以来、40年ぶり史上3人目の優勝者となり、世界的な注目を集める。
2008年春より、マリス・ヤンソンスのもとバイエルン放送交響楽団の首席オーボエ奏者に就任。2018/19シーズンからロサンジェルス・フイルハーモニックの首席オーボエ奏者に就任予定。
前半はモーツァルト「オーボエ・ソナタ」2曲。いずれもヴァイオリン・ソナタの編曲。
最初の「第26番変ロ長調K.378」ではケロはややセーブ気味に演奏を始めた。ピアノの島田彩乃はモーツァルトの時代のヴァイオリン・ソナタの様式「ヴァイオリン伴奏つきのピアノ・ソナタ」すなわちヴァイオリンはあくまで伴奏であり、ソナタの主役はピアノであることを忠実に守ったのか、ケロのオーボエに覆いかぶさるように音量もタッチも強めに始めた。
しかし第2楽章中間部あたりからケロにエンジンがかかってきたため、二人のバランスは良くなった。
続いての「第21番ホ短調K.304」は均衡が保たれ、ケロのオーボエもしっとりとした陰翳があった。ケロのオーボエは柔らかい音で良く歌う。
後半はケロのヴィルトゥオジティが全開した。最初はダエッリ「ヴェルディの歌劇《リゴレット》の主題による幻想曲」。リゴレットの愛する娘ジルダのアリア「慕わしい人の名は」の旋律をケロは歌手のように滑らかなフレーズで歌いながら華麗な装飾を細かく加え、次にその旋律を素早く細やかに変化させていく。どれほど速くなっても滑らかさは変わらない。
終盤は同じくジルダが歌う「いつも日曜の教会で」の哀愁を帯びたメロディーを美しく歌う。それから先動きは加速していくが、ケロは80%くらいの力で余裕を持って吹いているように見えた。
次に、ゆったりとしたテンポのデュカス「ジプシー風に」が異国情緒たっぷりに演奏された。オリジナルはパリ音楽院声楽科教授エティッシュが、様々な作曲家に依頼した150曲以上の初見試験用のヴォカリーズ。ケロはスペイン出身なので、こうした作品は肌に合うのか味わいがあった。島田のピアノも作品にふさわしいエキゾチックな響きを出した。
最後は「オーボエのパガニーニ」と呼ばれたアントニオ・バスクッリの超絶技巧曲「ドニゼッティの歌劇《ラ・ファヴォリータ》の主題による協奏曲」。16分もの長い曲。前半はゆったりと歌心に満ちたオーボエを聴かせた後、ピアノが開始する別の旋律による超絶技巧に移る。旋律を吹きながら細かな装飾音を加えていくが、動きがどんどん速くなっていく。その速さは尋常ではなく息の長いオーボエの限界に挑むような超絶技巧が続く。その動きは二人で吹いているようにも聞こえる。短調のゆったりとした別の旋律が挟まれ、最後は長調に転じて動きがさらに加速、一気にコーダに持ち込んだ。
あの速さの中、1つだけ音を外したがあとは文字通り完璧。この曲でもケロは全力を使わず余裕があるように見えた。
アンコールはシューマン「幻想小曲集」作品73の第1曲Zart und mit Ausdruck (静かに、感情を込めて)。本来はクラリネットとピアノのための作品。ケロのオーボエは、どちらかと言えば繊細でソフト。力強く吹くタイプではない。柔らかな響きはシューマンのロマンティックな世界に良く合う。島田のピアノもその柔らかな響きに合わせていた。
写真:島田彩乃(c)(c)Kazuto Shimizu