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Channel: ベイのコンサート日記
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ピエタリ・インキネン 日本フィル 諏訪内晶子(6月7日、サントリーホール)

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今日のコンサートのテーマは、「日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念公演」。1曲目湯浅譲二「シベリウス讃-ミッドナイト・サン-」は、1990年シベリウス生誕125周年のさい、当時ヘルシンキ・フィル首席指揮者だったセルジュ・コミッショーナから委嘱されたもの。湯浅を含め世界の8人の作曲家がそれぞれ短い作品を書いた。

 ミッドナイト・サンとは北極圏・南極圏で夏季に見られる真夜中の空にある太陽、白夜の太陽。そのイメージが作品から伝わってくる。弦や金管の高音が突き刺すような響きが、夜中にもかかわらずまぶしい太陽の不思議な力を感じさせる。テューブラーベルやアンティーク・シンバルの音と共に静かに消えていく最後の余韻も深い。インキネンが客席から湯浅譲二を舞台に呼ぶと大きな拍手が起きた。

 

 2曲目は諏訪内晶子をソリストにしたフィンランド、ヘルシンキ生まれの指揮者、作曲家エサ=ペッカ・サロネン「ヴァイオリン協奏曲」。

youtubeにリーラ・ジョセフォウィッツの演奏の一部とサロネンのインタビューがある。
https://www.youtube.com/watch?v=5IH9nLNDHnA

概略を聞き取りすると以下のようになる。(間違いがあればご指摘いただけるとありがたいです)


『私はオーケストラとヴァイオリンのパートを書くにあたって、音色だけではなく表現の限界を極めたかった。ただし楽器の特性の範囲内で。特性に反するような作曲はしたくない。時間とエネルギーの無駄になる。奏者たちは長い間楽器を完璧に弾きこなすためにありとあらゆる技術を追求してきた。作曲家がそのスキルを有効的に使わないのは馬鹿げている。

私は楽器の特性の枠の中で作曲するが、限界に近いところにとどめたい。時にわずかにその枠をはみ出すかもしれないが、しかし楽器の本質的な特性は掴み取りたい。

協奏曲の伝統にとらわれることなく書きたい。協奏曲は独奏または複数の楽器が中心になり、急--急の3楽章構成を持つ。それが協奏曲だ。単純なことだ。けれども私たちはそれにとらわれたくない。

 

 私はいつも猛烈なスピードと最高の技術を持つベストなロック・ドラマーたちに魅せられてきた。かねてからそれをシンフォニー・オーケストラに導入出来たら面白いと思っていた。私たちには素晴らしい打楽器奏者がいるが、ロック・ミュージシャンの信じられない動きにはいつも魅せられる。ある日ヴァイオリンとそうしたパート(ロック・ドラム)を組み合わせたら面白いのではというアイデアが浮かんだ。』

 

 サロネンの話の通り、作品は協奏曲の枠にとらわれない急---緩の楽章からなる。第1楽章「ミラージュ(蜃気楼)」は、独奏ヴァイオリンが動きの速いフレーズを絶え間なく奏でていく。第2楽章「パルスI」はティンパニが一定のリズを刻む中、ヴァイオリンが高音で音を伸ばしながら瞑想的なフレーズを奏でる。

 

第3楽章「パルスII」はハチャトゥリアンの「剣の舞」を思わせる激しいリズムとともに、独奏ヴァイオリンは激しいフレーズを刻む。ロック・ドラムスも加わって盛り上がる。しかし、このドラムス、サロネンが強調するほどのスピード感はなく、激しさもいまひとつ。ハードロックなら派手なソロを聞かせて大向こうの喝さいを集めるのだが、そこまで目立つことはない。だだ、コーダでは独奏ヴァイオリンとドラムスが激しくやりとりを交わしながら一気に終わるので、スカッとする。

 

第4楽章「アデュー」は静かだが情熱を込めた表情で独奏ヴァイオリンが奏でていき、やがておどろおどろしいオーケストラが重なってくる。最後は独奏ヴァイオリンは高音を奏でながら、昇天するようにオーケストラとともに静かに消えていった。

 

諏訪内晶子のヴァイオリンはいつもながら艶やかで美の極みだが、作品にもう少し深く鋭く食い込んで行ってもよかったのではないだろうか。アンコールはJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3ハ長調 BWV1005より第3楽章ラルゴ」は伸びやかで美しい。こうした穏やかな楽章では諏訪内晶子の美音が生きる。

 

 

 後半はシベリウス「組曲《レンミカイネン》」。

1954年出版のさいと違い、初演1896年の初演の時の曲順で演奏された。「トゥオネラの白鳥」が3曲目ではなく2曲目に置かれた。

 

 サロネン&日本フィルは、金管がやや粗いものの、積極的に前に出る木管と、低弦の重厚さやチェロやヴィオラの充実した響き、ヴァイオリンの集中度のある演奏など、

13年ぶりのヨーロッパ・ツアーの好影響が維持されており、充実した演奏を展開していた。

 インキネンの指揮も、日本フィルとの長いツアーでお互いの信頼と絆が深まったことを反映して、自信に満ち、より男性的で力強い指揮ぶりになっているように思った

 


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