Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

沼尻竜典 東京フィル ベートーヴェン「田園」、マーラー「大地の歌」(6月14日サントリーホール)

$
0
0

 

 ベートーヴェン「交響曲第6番《田園》」は、ピリオド的なノン・ヴィブラートでも速いテンポでもなく、ヴィブラートをかけた中庸でオーソドックスな解釈。中低音を充実させ厚みのある響きをつくっていた。ただ、あまりにも正攻法で新鮮味がない。名曲にありがちな、手あかのついた演奏を刷新する表現を期待したのだが、それはかなわなかった。

 

 後半のマーラー「大地の歌」は《田園》と比べると雲泥の差の出来栄えだった。特にオーケストラの響きが精緻で透明であり、東京フィルの各奏者のソロも素晴らしい。沼尻竜典はフルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、トランペット、ハープ、チェレスタ、打楽器、と次々に立たせてほめていたが、まったく同感だ。

 

 ソリストはテノールがアメリカ人のダニエル・ブレンナ。2011年チューリヒ歌劇場でデビュー以来、2015,16年にメトにデビュー、ワーグナーの楽劇のヘルデンテノールとしても活躍している。声量が豊かで通常第1楽章冒頭は管弦楽にかき消される声が、座った席が1階中央通路2列目ということもあり、よく聞こえてきた。

 

 メゾ・ソプラノは第72回日本音楽コンクール第2位、日生劇場「セビリアの理髪師」ロジーナ役、東京二期会「イル・トロヴァトーレ」アズチェーナ役などに出演した中島郁子。

 豊かで艶のある堂々とした歌唱だったが、歌詞にもう少し情感を込めてほしいと思った。特に第6楽章「告別」の後半、「友は馬を下り別れの杯を差し出した」以降から、最後の「永遠に 永遠に」は、もっと深い感情をこめてほしかった。

 後で関係者から聞いたが、実は中島にとって「大地の歌」は初デビューの曲だという。であるならば、無理もないことかもしれない。それにしては堂々とした歌唱で、第2楽章「秋に寂しきもの」、第3楽章「美しさについて」は立派だったと思う。

 

 ダニエル・ブレンナの歌唱は若々しく、文字通り青年の感性が歌唱からも感じられた。

第5楽章「春に酔える男」などジェスチュアたっぷりに酔っ払いの歌を歌う。第1楽章「大地の哀しみに寄せる酒の歌」の「生なお暗く、死もまた暗い」も絶望というより青春の感傷のようでもある。

 

 加えて、沼尻竜典東京フィルの創る音色も、暗澹たる暗さとは違う、青春の爽やかさ、感性の新鮮さを感じさせるものになっており、「大地の歌」につきまとう厭世的で、絶望的な暗さとは異なるアプローチを感じさせた。情念の塊のような演奏とは違う解釈による沼尻竜典の指揮は、私はとても良いと思う。
 さて演奏はとても良かったのだが、少し不快なことがあった。私のすぐ前の席の白髪の男性(70代後半?)が加齢臭というか、何日も頭を洗っていないのではと思わせるくらい匂いがひどい。耐えられずマスクで防備した。私の隣の女性も途中からマスクを着けたので、おそらく同じ思いだったのではないだろうか。

 更にひどいのは、曲の最後メゾ・ソプラノの中島郁子が「永遠に、永遠に....」と歌い終わり、これから余韻を味わうという時に、その老人があろうことか、パチパチと拍手を始めた。さすがに、「シーッ!」とたしなめたら拍手をやめた。しかし、気分は最悪だった。

顛末をSNSに書いたところ、「拍手が始まってしまい、あーあ、またかと思ったらすぐ止まってよかった。ありがとうございました。」という書きこみがあり、注意してよかったと少し気が済んだ。

 



 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles