2003年からコンサートマスターを務めていたアントニオ・アンセルミが急逝したため、バロック・アンサンブル、カメラータ・アングザヌムで活躍しているマッシモ・スパダーノが急遽ソロとコンサートマスターを務めた。
公演冒頭に、アンセルミを悼んで、ヴェルディ「4つの聖歌」から「アヴェ・マリア」が演奏された。演奏後は黙とうしたかったが、拍手が起きてしまったのは残念。
イ・ムジチの弦は、ピカピカに磨き上げた高級イタリア家具のような、木目の美しく滑らかな音がする。音色は明るく華やか。どれほど激しい演奏も混濁はなく、軽やかな響きを保っている。編成は3-3-2-2-1にチェンバロ。
モーツァルト《ディヴェルティメントニ長調K.136》、テレマン《ディヴェルティメント変ロ長調TWV50:23》は、流麗で艶のある演奏がレガートで美しく流れていく。響きは重くならず、天空を飛んでいるような気持になる。
ソプラノの天羽明惠(あもうあきえ)により、ヘンデルのオンブラ・マイ・フ、モーツァルトのモテット《エクスルターテ・ユビラーテ》ほか全3曲が歌われたが、湿り気を感じるやや重い日本人的な声が、(ヴィブラートのかけすぎかも)イタリアの明るく乾いた音色とあまり合っていないように感じた。
後半は、ヴィヴァルディ《四季》。抜けるような青空を思わせる、軽やかで美しい演奏。アンセルミ時代の演奏は、映像で見る限り、かなりアグレッシブな《四季》を聞かせていたが、スパダーノ率いるイ・ムジチはピリオド奏法を取り入れつつ、適時ヴィブラートをかけ、中庸で流麗な演奏に終始していた。
《冬》第1楽章冒頭でのフラジオレットの高音の無機質な不協和音が現代音楽のようで、面白いと思った。
アンコールはJ.S.バッハ: G線上のアリア、ヴィヴァルディ: 4つのヴァイオリンのための協奏曲 ロ短調 「調和の霊感」RV580から 第1楽章、天羽明惠が会場に歌を呼びかけた山田耕筰: 赤とんぼ。終演は9時20分を過ぎていた。
資料:
イ・ムジチ合奏団歴代コンサートマスター
第1代:フェリックス・アーヨ(Felix Ayo)1951~1967
第2代:ロベルト・ミケルッチ(Roberto Michelucci)1967~1972
第3代:サルヴァトーレ・アッカルド(Salvatore Accardo)1972~1977
第4代:ピーナ・カルミレッリ(Pina (Giuseppina) Carmirelli)1973~1986
第5代:フェデリゴ・アゴスティーニ(Federico Agostini)1986~1992
第6代:マリアーナ・シルブ(Mariana Sîrbu)1992~2003
第7代:アントニオ・アンセルミ(Antonio Anselmi)2003~2019
写真:(c)KAJIMOTO