前半はハイドン「交響曲第94番《驚愕》」。巨匠の風格。ピリオド奏法とは無縁。
スケールの大きな演奏だった。
ショスタコーヴッチ「交響曲第13番《バビ・ヤール》」はピョートル・ミグノフ(バス)、新国立劇場合唱団(男声)が共演。
全体に重厚でスケールが巨大な演奏だったが、血が凍るようなショスタコーヴィチではなく、テミルカーノフの温かな愛情のようなものを感じた。
第1楽章「バビ・ヤール」は重々しい。また、第4楽章「恐怖」は、密告の恐ろしさが充満するが、第2楽章「ユーモア」の嗜虐の表情は演劇的な格調を感じた。第3楽章「商店にて」冒頭の地鳴りのようなコントラバスの低音が良かった。第5楽章「立身出世」の最後のチェレスタと鐘の音のあとの静寂がまた良かった。
バスのミグノフは素晴らしい。長身でやや細身で詩人にふさわしい外見。自然な発音と豊かな表情で、エフトゥシェンコの詩を歌い上げた。さらに50人ほどの新国立劇
場合唱団(男声)の野太く力強い歌声がロシアの民衆を思わせる。ミグノフのソロとのやりとりも見事で、テミルカーノフは合唱指揮の冨平恭平の手をとって現れ、合唱団を大絶賛していたのが印象的だった。
読響はコンサートマスター、日下紗矢子をはじめ、全員がテミルカーノフへの絶大な信頼を寄せるように、演奏に集中していた。熱演というより、テミルカーノフの指揮と解釈を噛み締めるように、いとおしむように、演奏しているように思えた。
ソロ・カーテンコールに登場したマエストロは、譜面台に置かれたショスタコーヴッチの総譜を高々と聴衆に掲げた。