(11月28日、オーチャードホール)
「究極のアリア」と名付けられた今回はバッハの「ゴールドベルク変奏曲」が演奏された。
作品自体を「音の旅」と捉え、それが第29変奏で終わり、第30変奏の「クオドリベット」は旅の終わりに遠くから民衆たちの歌が聞こえてくるようだと語る小山実稚恵。第29変奏が華麗に終わった直後、ひそやかな弱音で歌声がだんだん近づいてくるように始まる「クオドリベット」が効果抜群だった。その後の「アリア」は最初とは全く違う、人間の成長や成熟の表情を持っていた。
バッハ特有の各変奏のダイナミックの急激な変化もしっかりと描き分けられており、中でも圧倒的なテクニックを見せた第20変奏から悲痛な短調の第21変奏に移るときの転換が見事だった。
第17変奏など快適なテンポで弾かれるトッカータは実に楽しそうに弾いてチャーミングだった。
一方で期待したものと違っていたのは崇高とも言われる第13変奏と最も偉大な曲と形容される第25変奏で、この2曲が思い入れのないあっさりとした表情で弾かれたのは意外だった。また、第1、第10、第12変奏など多声部やフーガが少し平板に感じられるものがあった。
アリアで始まりアリアに帰るというゴールドベルク変奏曲に合わせたのか、第1曲目をシューマン「花の曲」で始め、このリサイタルシリーズ第1回第1曲目シューマン「アラベスク」のアンコールで終わるという選曲の妙もあった。