日本では、上演機会が少ないオペラのため、客席は少し空席があったが、終演後の歓声と拍手はとても熱く、オーケストラと合唱が舞台から去った後も歌手とゲルギエフへのスタンディングオベイションが長く続いていた。
あらすじは、ジャパンアーツのサイトにあるのでお読みください。
http://www.japanarts.co.jp/tf2019/opera/
歌手は、全員安定感があり、マリインスキー・オペラの層の厚さを実感した。
マゼッパ役のウラディスラフ・スリムスキーは、第1幕では、抑え気味だったが、第2幕第2場のマゼッパの独白から一気に全開した。
マリア役マリア・バヤンキナは、しっとりと潤いがある美声。マリアにふさわしい美貌。狂乱したマリアが死に行くアンドレイを赤ん坊と思い込み、子守唄を歌うラストの繊細な表現が素晴らしかった。ゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管弦楽団の繊細な演奏も見事。
マリアの父コチュベイ役スタニスラフ・トロフィモフがとても良かった。おおらかで温かみがある声。第2幕第1場、獄中での長いソロ(あの悪党の)( お前たちは間違っていない)の怒りからあきらめに至る心理を良く表現した。
マリアの幼なじみで、逃走中のマゼッパにいどみかかり返り討ちにあうアンドレイ役エフゲニー・アキーモフが最高の出来。
マゼッパの部下オルリク役ミハイル・コレリシヴィリが存在感を出す低音で好演。コチュベイの妻リュボフのアンナ・キクナーゼもアンナとの二重唱で迫力があってよかった。
60人ほどの合唱は少し粗いが、声量がすさまじいので、fffでの迫力たるや、会場を揺るがすようなすごさがあり、これぞロシアの合唱団と思わせた。
ゲルギエフの指揮も粗さと繊細さが両方あり、ややリハーサル不足の印象もあったが、マリア最後の繊細な歌唱ではオーケストラを細かくコントロールしていた。
バンダの金管、木管、打楽器はオルガン下手横に配置され、処刑の場面や第3幕間奏曲「ボルタワの戦い」では、強烈なマリインスキー歌劇場管弦楽団の強烈な演奏に、さらに力を加えていた。
《エフゲーニ・オネーギン》のような心理描写の緻密さや、深みは少ないかもしれないが、プログラムに書かれているように、ウクナイナの土俗的な味わいがあり、荒々しい音楽はチャイコフスキーの別の面を見るような新鮮さがあった。
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
原作:アレクサンドル・プーシキン
作曲:ピョートル・チャイコフスキー
管弦楽・合唱:マリインスキー歌劇場管弦楽団・合唱団
上演時間:3時間40分(休憩1回含む)
◆主なキャスト◆
マゼッパ (バリトン):ウラディスラフ・スリムスキー
コチュベイ (バス):スタニスラフ・トロフィモフ
リュボフ (メゾソプラノ):アンナ・キクナーゼ
マリア (ソプラノ):マリア・バヤンキナ
アンドレイ (テノール):エフゲニー・アキーモフ