読響初登場のボルトンは、イギリス出身。1984年に古楽器アンサンブル、セント・ジェイムズ・バロックを設立。今は、バーゼル響首席、マドリード王立劇場音楽監督他の任にある。
感想を一言で言えば、「古楽器奏法による熱い<第九>」。ボルトンは、熱い指揮者だ。登場した時から、大きな身体からエネルギーがあふれ出るようだ。無駄な動きはなく、音楽にすぐ集中する。指揮は熱いが、自分に酔うことはなく、冷静でもある。ノンヴィブラートの弦、バロック・ティンパニと木のマレット(第1楽章は通常のマレット)。木管もヴィブラートは使わない。すっきりとした響きだが、音は厚みがあり、充実している。
テンポは速め。演奏時間は65分前後だろうか。オーケストラをバランス良くコントロールする点が素晴らしく、特に木管のバランスが良い。どの木管もきちんと聞こえてくる。対位旋律も良く聞こえる。
ボルトンは、弦のアーティキュレーションについて、はっきりとした考えを持っているようで、第3楽章1主題は、部分的に厚い響きをつけたり、また透明にしたり、と多彩な表情があった。読響の弦は今日も好調で、特にチェロとコントラバスの切れと響きの良さ、合奏の一体感は傑出していた。コンサートマスターは小森谷巧。
今日は日橋辰朗が入っており、ホルンは抜群の安定感があった。ソロの素晴らしさはもちろん、オーケストラの中にあっても、常にハーモニーの要となっていた。ボルトンがソリストや新国立劇場合唱団のあと、最初に日橋を立たせたのも頷ける。
ソリスト4人(ソプラノ:シルヴィア・シュヴァルツ、アルト:池田香織、テノール:小堀勇介、バリトン:トーマス・オリーマン)は安定感があった。新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)は約80人。二重フーガでも各声部が明瞭で、女声も力強い点は、さすがの実力。今年は例年以上に分厚く強力な合唱だった。終演後ボルトンが大きな身体で三澤をがっしりと抱擁していた。
前半に、武蔵野市国際オルガンコンクールで日本人として初優勝し、ニュルンベルク、ブリクセン、ピストイアの各オルガンコンクールでも優勝している、福本茉莉がJ.S.バッハ「コラール(目覚めよ、と呼ぶ声あり)」とブルーンス「前奏曲」を弾いた。後者ではサントリーホールのオルガンを壮大に鳴らし、迫力のある演奏を披露していた。