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Channel: ベイのコンサート日記
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トッパンホール ニューイヤーコンサート2020 (1月8日・トッパンホール)

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 今年最初のコンサート。
 トッパンホールのニューイヤーコンサートは、これまでピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)の無伴奏チェロ・リサイタルや、若手演奏家の意欲的なプログラムといったクラシック通を唸らせる凝った内容が多かったが、今回はヴィヴァルディ《四季》など華やかな作品が並んだ。しかし、めったに聴けないヨハン・ゴットリープ・グラウンの「ヴァイオリン協奏曲イ長調」がある点は、やはり一味違う。


 グラウンを選んだのはソリストのドイツ・カンマーフィル、コンサートマスター、ダニエル・ゼペック。ゼペックに言わせると「グラウンはヴィヴァルディのようで、もっと行っちゃってる」とのこと。聴いていてどこが「行ってしまっている」のか、わからなかったが、第3楽章の即興的なカデンツァは当時としては革新的な激しさに聞こえたのかもしれない。cpoレーベルにグラウンの作品ばかりを録音しているゼペックなので、演奏は堂に入っていた。

 共演はトッパンホールチェンバー・オーケストラ(在京オケの主要メンバーなどで構成)。4-4-2-2-1の小編成だが、トッパンホールのサイズには充分すぎる音量。

 

 続いて、ドイツを代表するチェリストで、シュターツカペレ・ドレスデンの首席としても活躍したペーター・ブルンズが、ハイドンの「チェロ協奏曲第1番ハ長調」を弾いた。2018年に共演したトッパンホールチェンバー・オーケストラから大好評で、今回の再演が決まった。
 ブルンズは初めて聴いたが、生命力があり、力強いチェロを弾く。音はシュターツカペレ・ドレスデンの音色に通じる柔らかく温かなもの。音楽性があるという言い方はあいまいだが、音楽を今生み出し創造しているような、エネルギーが充満した演奏の迫力が凄い。使用楽器は、カザルスが所有していた1730年ヴェニス製のカルロ・トノーニ。この1曲のためにだけ、ホルンの日橋辰朗やオーボエの蠣崎耕三(ともに読響首席)が加わるのは贅沢だ。
  ここでは、ゼペックがトッパンホールチェンバー・オーケストラのコンサートマスターを務めたが、オーケストラの音が格段に良くなることに驚いた。ゼペックはブルンズとアイコンタクトしながら、一体感をどんどん深めていった。

 

後半は、ヴィヴァルディ「ヴァイオリン協奏曲集《四季》」。ソロを務めるのは、山根一仁。2010年中学3年生で第79回日本音楽コンクール第1位、岩谷賞など5つの副賞も受賞。いまや日本の若手ヴァイオリニストを代表する一人だ。
 ゼペック率いるトッパンホールチェンバー・オーケストラにはブルンズも加わる。山根、ゼペック、ブルンズの間にどのような化学反応が生まれるか、スリリングな《四季》になるのでは、と予想していたが、結果的にはゼペックのコンサートマスターとしてのけん引力と、ブルンズの存在感の大きさを痛感するものとなった。

 ゼペックが入るとオーケストラの音色がまるで違うものになる。ゼペックの音だけがガンガン聞こえてくる。それに引っ張られてオーケストラの奏者たちも積極的になり、本来の力を引き出してもらっていたようだ。そしてブルンズ!山根とのソロの応酬ではブルンズが圧倒する。音も大きいし、音楽が豊かで、終始大きな存在感を示した。

 

山根はアゴーギク(テンポやリズムの意識的な変化)を使うなど、革新的な演奏を目指す姿勢が出ていた。鮮やかなテクニックや流れるように滑らかなフレーズなど聴きどころも多い一方で、演奏の線が細いため、ソロとしての存在感が少し薄い。もっと力強く前に出ても良かったのではないだろうか。
 アンコールは、弦楽器全員と通奏低音のチェンバロでバッハのアリアが披露された。


 


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