第643回名曲シリーズ
(6月15日・サントリーホール)
ヴェルディ「歌劇《運命の力》序曲」
音の輪郭がくっきりとしたヴェルディ。ヴェルディの熱気というよりも完全無欠の大理石の建築物のような少しひんやりとした感覚があった。
メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」
アラベラ・美歩・シュタインバッハーの上品で洗練された美音はメンデルスゾーンに良く合う。本人はあるインタビューでメンデルスゾーンのこの作品はモーツァルトやベートーヴェンに近いと話していたが、演奏はそうした古典的な佇まいを感じさせた。
一方で終楽章コーダのルバートなど、大胆なフレーズにも躊躇することなく挑戦していた。
第1楽章第2主題を弾くアラベラ・美歩のヴァイオリンにバックの木管のハーモニーが美しく共鳴する。木管だけではなく、弦や金管もソリストと一体感があり、ヴァイグレの指揮の繊細さ、緻密さに改めて感銘を受けた。
ブラームス「交響曲第1番」
隅々までヴァイグレの意図が浸透した明晰でバランスの良いブラームス。熱や感情に流されることがない。各声部が混濁することなく、明晰に聞こえる。ヴィブラートを強調しないすっきりとした響きは、以前レセプションでヴァイグレ本人に伝えた『最新型のベンツでアウトバーンを振動もなく滑るように疾走する演奏』という形容がぴったりだ。
第4楽章コーダに向かっては、内部から涌き出る演出のない自然な高揚感があり、最後の金管のコラールも壮麗だった。読響の演奏も自発的でヴァイグレへの信頼と共感に溢れていた。
ヴァイグレはベルリン国立歌劇場の首席ホルン奏者だった。たぶんブラームスの1番も吹いた経験はあるだろう。自分ならこう吹きたいという気持ちを委ねるように、読響首席の日橋辰朗に思い切り華やかに晴れやかに吹かせていたのが印象的だった。しかもそれが演奏のアクセントとして、見事に決まっていた。
今日の読響は木管群が絶好調。ブラームスでは、第2楽章のオーボエのソロ(首席金子亜未)、フルートのソロ(フリスト・ドブリノヴ)がヴィブラートが少なめのクリアな音で素晴らしかった。二人ともヴェルディのテイストに合致していた。
聴きつくした名曲だが、演奏はルーティンに終わることなく新鮮だった。名曲プログラムということもあり、客席はよく入っていた。お客様も充実の演奏に満足されたことだろう。最後はヴァイグレへのソロ・カーテンコールもあった。
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