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Channel: ベイのコンサート日記
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<バッティストーニの運命>渋谷の午後のコンサート (オーチャードホール)

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(11月2日・オーチャードホール) 

指揮とお話:アンドレア・バッティストーニ(首席指揮者)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

ヴェルディ/歌劇『運命の力』序曲

ヴォルフ=フェラーリ/歌劇『マドンナの宝石』間奏曲

プッチーニ/歌劇『マノン・レスコー』間奏曲

ポンキエッリ/歌劇『ラ・ジョコンダ』より「時の踊り」

ベートーヴェン/交響曲第5番『運命』

 

バッティストーニと東京フィルは昨晩サントリーホールで熱演を繰り広げたばかり。オーケストラの顔ぶれを見ると首席奏者は昨夜とほぼ同じ。たぶん他のメンバーも同じだろう。しかも明日からまた2日連続で定期演奏会が続く。音楽家はタフじゃないと務まらない職業だ。

 

このコンサートは指揮者と司会者のおしゃべりも売りのひとつ。司会&通訳の井内美香さんの飄々としたしゃべりとバッティストーニのテンポのいい話が楽しかった。

 

あらかじめ聴衆から集めた質問にバッティストーニが答えていく。

前半の質問&回答で一番受けていたのが、バッティストーニが富山の高校のオーケストラの指導に行った時の話。
井内さんが「高校の印象は?」と聞くとバッティストーニは「イタリアにいたときはアニメや学園もののドラマで日本の学校の様子を知っていたけど、実際に行ってみると本当にそのとおりだった(場内爆笑)。セーラー・ムーンはいなかったけどね(笑)。」

プログラムのテーマは「運命」。前半のオペラの序曲と間奏曲は、運命に翻弄される人物たちを描いたオペラから選ばれた。オペラを知悉するバッティストーニならではの深い表現が興味深い。

 

ヴェルディ/歌劇『運命の力』序曲の最初は昨日の疲れがまだあるのかなという印象だったが、コーダに向かって高揚し始めると一変して、力強い演奏になり、以降コンサートを通してその状態を維持していた。

 

ヴォルフ=フェラーリ/歌劇『マドンナの宝石』間奏曲はホームミュージックのレコードやCDの1曲目に必ず入っていた。実際自分もそうしたアルバムを制作したこともある。しかし、オペラは義妹に恋した主人公がマドンナの宝石を盗み出し、義弟は盗賊のもとに走り、主人公は自殺するというストーリー。ただ美しいという曲ではない悲劇の影がバッティストーニの指揮から感じられた。

 

同じくプッチーニ/歌劇『マノン・レスコー』間奏曲にもそうした悲しい物語を予感させる陰影深い表情があった。

 

ポンキエッリ/歌劇『ラ・ジョコンダ』も悲劇的な物語だが、舞踏会の場面で使われる「時の踊り」だけは明るい。ディズニー映画「ファンタジア」ではワニやカバが踊る場面で使われた。バッティストーニの指揮は描写力があり、小品が生き生きと輝いて聞こえる。軽快で楽しい演奏だった。

 

後半のベートーヴェン「交響曲第5番《運命》」の前にもトーク。ここでは「クラシック以外で好きな音楽は?」の質問に、「日常的にはクラシックはあまり聞かない。シンガー・ソング・ライターのトム・ウェイツが好き」と答えると会場から一人の大きな拍手が聞こえた。バッティストーニがすかさず「素晴らしい趣味をお持ちですね」と持ち上げた。

バッティストーニはさらに「ジョン・コルトレーンとビル・エヴァンスも好き」と加えた。ここでも拍手。バッティストーニ「今度一緒にコンサートに行きましょう」(二人とも故人だが)

 

ミュージカルや映画では「スティーブン・ソンドハムはミュージカル以上オペラの作曲家だ。ジョン・ウィリアムズも好き」とのこと。

 

ベートーヴェン「運命」については

「ベートーヴェンは収まりきらないエネルギーを抑えるための構造を作り、第3楽章までのオーケストレーションでは足らず、劇場でしか使われなかったトロンボーン、ピッコロ、コントラファゴットを加えた。フランス革命の思想を反映しており、俺たちの声を聞けと庶民のための楽器を使った」

と語った。


2018年3月10日、京葉銀行文化プラザでの東京フィルとの演奏とほぼ同じ解釈で、「運命の動機」のフェルマータは短く、第1、4楽章提示部の繰り返しはあり、演奏時間は32分前後。第4楽章コーダでは主和音が何度も叩きつけられる部分は休符を短くして、4分休符+2分休符が4分休符に聞こえるような切迫感を出していた。
激しいが粗さのない磨き抜かれたタイトな響き。推進力のあるキレの良い演奏。

 

アンコールは昨晩と同じリスト(バッティストーニ編曲):『巡礼の年』第2年「イタリア」より サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ。昨日よりも堂々とした編曲に聞こえた。


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