(11月1日・サントリーホール)
指揮:アンドレア・バッティストーニ
フルート:トンマーゾ・ベンチョリーニ
バッティストーニ:「フルート協奏曲《快楽の園》」~ボスの絵画作品によせて(2019)
(日本初演)*I. 天地創造 II. エデンの園 III. 地獄ーカデンツァ IV. 庭
チャイコフスキー:交響曲第5番
バッティストーニのフルート協奏曲「フルート協奏曲《快楽の園》~ボスの絵画作品によせて」日本初演。色彩感が豊か、絵画的な描写力があり、エネルギッシュで親しみやすい音楽で、作曲家としても才能に満ち溢れていることがよくわかる。
この作品はバッティストーニがヒエロムニス・ボスの三連祭壇画《快楽の園》からインスピレーションを受けて書いたもの。絵の解釈をめぐっては当時の宗教的な背景があるという見方やシュールリアリズムの先駆けとするものなど、様々な解釈が錯綜しているが、バッティストーニがプログラムに書いた解説を読むと、絵を見た印象を素直に音楽に移し変えているようだ。
「天地創造」「エデンの園」「地獄―カデンツァ」「庭」の4つの楽章からなる30分ほどの作品で、フルートの独奏は、バッティストーニの友人でもあるトンマーゾ・ベンチョリーニ。金属ではなく黒い木製フルートを使うため、音量は小さめ。オーケストラが強音の時は音が隠れてしまう場面もあった。その代わり、音は柔らかく温かみがある。
「天地創造」はボス(Bosch)の名前の音型、B-ES-C-Hの主題から始まる神秘的な楽章、「エデンの園」の鳥の声を模したフルート、神を表す金管のコラールが鳴り響く。「地獄―カデンツァ」は鐘をガンガン鳴らし、ベルリオーズ《幻想交響曲》のような雰囲気が迫力満点。金管も鋭い。フルートのカデンツァのあと、活気あふれるロンドの「庭」になり、最後は静かに終わった。
ベンチョリーニのアンコールはJ.S.バッハ「無伴奏フルートのためのパルティータ BWV1013 より サラバンド」。
後半はバッティストーニがイタリアのRAI国立交響楽団とCDも録音しているチャイコフスキー「交響曲第5番」。
堂々としたスケール感があり、エネルギッシュ。若々しく輝かしい演奏。金管を切れ味よく鳴らす。第1楽章の第2主題、第2楽章のオーボエから始まる主題など、緩徐主題の繊細な歌わせ方も素晴らしい。
東京フィルもバッティストーニの指揮に瞬時に応える集中力のある演奏を繰り広げ、両者の信頼関係の深さが良く出ていた。
バッティストーニの指揮は一見激しく派手だが、バランスが良く、fffでも音が濁らず抜けが良い。土台がしっかりとしており、揺るぎがない。繊細な表情と華やかな色彩感にも事欠かない。造形力や構成がしっかりとした緻密な音楽づくり、指揮であることを改めて確認した。
アンコールはリスト(バッティストーニ編曲):『巡礼の年』第2年「イタリア」より サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ。カンツォネッタは16世紀後半イタリアで流行した小歌曲。「小さな歌」という意味通り、かわいらしい作品でバッティストーニの編曲もユーモアがあった。