ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」
イリヤ・ラシュコフスキーは2012年第8回浜松国際ピアノコンクール優勝。
ピアノは硬質で芯があり、クリスタル。その澄んだ音と共に色彩感も浮かび上がる。
一音一音の輪郭が明快で、力強いピアノはオーケストラの総奏にも負けず、しっかりと聞こえてくる。
尾高忠明大阪フィルの音を久し振りに聴いたが、オリジナリティのある色彩豊かな音。奏者一人一人の個性がソロからよく聞き取れる。ヴァイオリン群の音はラシュコフスキーと同一性がある高音部の輝きと華やかさがあり、金管もカラフル。尾高忠明の指揮も切れ味があり、ラシュコフスキーとの一体感は完璧だった。ミューザで大阪フィルが演奏するのは今回が初めて。このオーケストラの魅力がよくわかる素晴らしい機会となった。
終楽章のラフマニノフの名旋律をオーケストラとともに壮大に力強く弾いて圧巻だった。
ラシュコフスキーは7年前にスクリャービンのピアノ・ソナタ全曲演奏会で聴いていた。
スクリャービン/ピアノ・ソナタ全10曲演奏会 イリヤ・ラシュコフスキー | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)
アンコールもやはり得意のスクリャービン「《悲愴》op.8-12~12のエチュードより)だった。
後半のエルガー「交響曲第1番」は尾高忠明大阪フィルの相性の良さをはっきりと示す名演。
大阪フィルの明るいキャラクター、カラフルな音、弾けるような元気の良さ、エネルギーを尾高がしっかりと受け止め、方向を明確に指し示す。
同時に、尾高忠明自身が大阪フィルからエネルギーをチャージされているかのよう。
得意のエルガーということもあるのだろうが、こんなに楽しそうで弾けた尾高忠明を見るのは初めてかもしれない。他のオーケストラだと、緻密だが少し型にはまりすぎ、大人しく感じることもある。それが、大阪フィルだと自分が本当にやりたいことを思い切りぶつけ、楽員もノリノリでそれに応えるという相乗効果が出ていた。
第1楽章はエルガーの代名詞でもある「ノビルメンテ・エ・センプリーチェ」(高貴かつ素朴に)のモットー主題をコントラバスの分厚いリズムともに堂々と始める。激しい第1主題では大阪フィルのパワフルで華やかな金管が力を発揮、優雅な第2主題との対比が鮮やか。
第2楽章スケルツォの行進曲風主題の切れ味が爽快。中間部の流れるような旋律をフルートとハープが美しく奏でる。エルガーは「川岸におりた時に耳にするような音」のように演奏してほしいと語ったという。そういう雰囲気が良く出ていた。
休みなく入る第3楽章アダージョは美しかった。尾高は大切な宝物をいとおしむような指揮。第1主題には高貴さが漂う。第2主題はクラリネット、ハープなどが組み合わされ淡い光が差し込むよう。
アタッカで入った第4楽章は、弦と木管の神秘的な雰囲気に始まり、モットー主題の断片が出て、アレグロの主部へ入る。おだやかな第2主題の後、序奏部の動機も激しく鳴らされていき、クライマックスへ向かう。
大阪フィルの金管、弦が充実した演奏を展開していく。ハープの伴奏と共に弦で美しく第3主題が奏される。再現部が壮大に始まり、最後は嵐のように動く中、モットー主題が荘厳に輝かしく、現れる。ここは色彩感豊かで、金管の輝かしい響きが力強い。
尾高はプレトークで「エルガーとブルックナーは似ている」と話していたが、このコーダでも、様々な旋律が動く中、モットー主題が壮大に雄渾に響き渡るところは、ブルックナーの交響曲との共通点がある。
尾高と大阪フィルのミューザ川崎デビューにふさわしい記念すべき名演だった。
アンコールはエルガー「威風堂々」第1番。中間部「希望と栄光の国」の旋律を格調高く演奏し、最後はここぞとばかりに華やかに盛り上げた。
尾高忠明へのソロカーテンコールの拍手が長く続くが、本人がなかなか出てこない。何かあったのかと心配していたら、なんと着替え終わったカジュアルな服装でステージに現れた。カーテンコールはもうないと思ったのだろうか、最後に笑いをとるのはさすが大阪流!
尾高忠明©Martin Richardson