(9月24日・紀尾井ホール)
トレヴァー・ピノックの紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)第3代首席指揮者就任記念コンサート。4月の予定が急病のため、9月となった。
バイエルン放送響コンサートマスター、アントン・バラホフスキーがゲストという万全の態勢。葵トリオの小川響子も初参加するKCOはアンサンブルが練り上げられていた。
ワーグナー「ジークフリート牧歌」はとても端正で品格がある。バラホフスキーのリードもあるのか弦が引き締まる。ホルンの日橋辰郎のソロが遠くから響いて来るようで素晴らしかった。
ショパン「ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21」
2020年以来二度目の来日となるアレクサンドラ・ドヴガンのショパン「ピアノ協奏曲第2番」がなんとも素晴らしかった。2007年生まれ、なんと15歳!硬質でクリスタルな音。繊細だが、しっかりとした芯と重みもあり、強音も揺るぎがない。
例えてみれば、バカラのクリスタルグラスのようだと言えるだろうか。
ショパン19歳の時の作品と15歳のドヴガンが共鳴し一体となる。自然なフレージングはショパンの言語ポーランド語を話すネイティブのようだ。第2楽章ラルゲットのトリルの煌めきに心奪われる。
ピノックKCOも引き締まった音でサポート。木管やホルンのソロもうまい。
ドヴガンのアンコールは、バッハ(シロティ編)「前奏曲ロ短調」。右手の16分音符四連符の繰返しのなんという美しさと純粋さ!天使が空から降りてくるようだ。この世の悩み、苦しみ、悲しみを全て浄化するような絶美のピアノが心の奥に真っすぐ飛び込んでくる。最初の一音を聴いただけで、目頭が熱くなり、続いて涙が溢れた。
今年3月のバルセロナでの演奏がyoutube↓にあるが今日の感動がある程度伝わってくる。実際の音はこれよりも遥かに、遥かに、心打つものだった。
Bach-Siloti, Prelude in B minor, Alexandra Dovgan, Barselona 28.03.2022 - YouTube
26日(月)にも紀尾井ホールでリサイタルがある。残念ながら、行けないが。
28日ミューザ川崎で鈴木優人読響とモーツアルト「ピアノ協奏曲第24番」を弾くので楽しみだ。ショパンと同じく彼女にはぴったりだと思う。
シューベルト「交響曲第5番変ロ長調 D485」
KCOの弦の音は高音が少し硬め。KCO伝統の音とも言えるが、これがもう少し柔らかいとさらにいいと思うのだが。
これは想像だが、奏者各々が名手ぞろいのため、「弾きすぎる」のではないだろうか。指揮者がよほど抑えないと、柔らかな響きにはならないのではと思う。
アンコールのシューベルト「ロザムンデより間奏曲第3番」ではそうした柔らかい弱音の美しい演奏が実際にできていたので、やろうと思えば可能ではないだろうか。
個人的には、マリナーとアカデミー室内管弦楽団のような響きになってくれたらどんなに素晴らしいだろうと期待している。