(10月21日・東京オペラシティ)
チョン・ミョンフンがヴェルディ「歌劇≪ファルスタッフ≫」を指揮するのは、今回が初めてだという。東京フィルの楽員のインタビューでは、ものすごい準備をして臨んだとのこと。
東京フィルは12型だが、フォルティシモでは凄まじい音が鳴る。ヴェルディ特有のピッコロなど鋭い高音は切れ味鋭く、金管はチンバッソも含めて、時に嵐のように鳴り響く。
ムーティ春祭オーケストラの《マクベス》の超名演と重なる部分を感じた。
ただ、マクベスとの大きな違いは歌手陣。ファルスタッフのセバスティアン・カターナと、フォードの須藤慎吾の二人のバリトンは、世界レベルの歌唱だが、他の日本の歌手陣の声の薄さ、立体感や奥行きのなさ、抑揚の不足、イタリア語らしく聞こえないことが気になった。
ナンネッタ(ソプラノ)の三宅理恵は、第3幕第2部ウィンザーの公園の場面で、妖精の扮装で歌う場面は素晴らしかった。
演奏会形式だが、チョン・ミョンフンの演出が面白く、チョンは居酒屋ガーター亭の亭主役も兼ね、エプロンをつけほうきをもって下手から指揮台に向かった。ファルスタッフに勘定書きを渡すのもチョンの役。ファルスタッフが従者バルドルフォとピストーラを叩きだすときも、チョンがカターナにほうきを放り投げ、カターナが見事にキャッチしていた。
第2幕で、フォードがファルスタッフと肩を組んで舞台を去るとき、チョンも指揮を止め、一緒になって出て行ってしまうが、オーケストラはちゃんと最後まで鳴っていた。
第3幕最後の10人のフーガ「世の中はすべて冗談」は、なんとアンコールされた。
終演後、数は少ないが熱心に拍手を続けた聴衆の前に、チョン・ミョンフンと歌手陣がもう一度現れ、拍手に応えていた。
第150回東京オペラシティ定期シリーズ
指揮・演出:チョン・ミョンフン (名誉音楽監督)
ファルスタッフ(バリトン):セバスティアン・カターナ
フォード(バリトン):須藤慎吾
フェントン(テノール):小堀勇介
カイウス(テノール):清水徹太郎
バルドルフォ(テノール):大槻孝志
ピストーラ(バス・バリトン):加藤宏隆
アリーチェ(ソプラノ):砂川涼子
ナンネッタ(ソプラノ):三宅理恵
クイックリー(メゾ・ソプラノ):中島郁子
メグ(メゾ・ソプラノ):向野由美子
合唱:新国立劇場合唱団
ヴェルディ/歌劇『ファルスタッフ』(演奏会形式)
公演時間:約2時間30分(休憩を含む)