(11月9日・横浜みなとみらいホール )
アメリカのオーケストラとしては、コロナ禍では最初、ボストン交響楽団(BSO)としては、5年ぶりの来日。
豪華絢爛で、胸のすくようなパワフルな演奏。弦は華やかで品格があり、木管は落ち着いた音色、金管はパワー全開で、輝きと推進力があり、完璧なテクニック。トランペット首席のトーマス・ロルフスは世界最強の一人では?打楽器陣は、ティンパニの粘りのある芯の強い音をはじめ、余裕がある。これら名手たちが最強音で演奏しても、混濁なく鳴り響く様は圧巻。
全体的に明るく、影の濃さはそれほどないのは、アメリカのオーケストラに共通する特徴だろう。マーラーの深刻さ、暗さ、辛辣さを離れて、ヴィルトゥオーゾ集団の磨き抜かれた演奏をとことん味わうという姿勢で聴く方が良いと思った。ただBSOは特にヴァイオリンの上品な響き、中低弦の奥行きのある音など、ヨーロッパ的な響きも持ち合わせており、弱音や繊細な表現も素晴らしかった。
ネルソンスの指揮は、緻密でバランス感覚に優れ、こうしたBSOの美質を余すところなく引き出していた。動きは大きくなくともBSOが自発的に動き、両者の信頼の深さ、相性の良さが感じられた。
ネルソンスは、初版譜の第2楽章スケルツォ、第3楽章アンダンテの順で演奏した。また第4楽章のハンマーは3回叩かれた。
具体的な演奏について。
第1楽章
行進曲的な第1主題、トランペット、トロンボーンの強烈な音が爽快。第2主題(アルマの主題とも言われる)の弦の艶と張り、強靭さにうっとり。品格のある音。これぞBSO。
展開部はがっちり。強力。カウベルは奏者が舞台袖に下がり、遠くから響かせた。
再現部は金管がさらに前に出る。コーダで第2主題が華やかに登場するところはBSOの面目躍如。パワフルで明るい音が充満した。
第2楽章スケルツォ
ティンパニ!マレットが深く食い込むような粘りのある音がとてつもないインパクトがある。金管だけではなく、木管も強力。トリオのあとに続く木管の哀調のある旋律には、皮肉も含まれていた。
第3楽章アンダンテ
第1主題の弦が洗練されていて品がある。暗くはない。イングリッシュ・ホルンの副主題も暗くはない。ホルンのソロがうまい。
練習番号96からの弱音器をつけた弦とホルンの副主題から、ミステリオーソとなる静かな部分は、マーラーの繊細、精密な音楽の極致。ハープ、チェレスタ、オーボエと共に夢のような世界をつくった。
練習番号100からは劇的なクライマックスとなるが、ここは豪華な響き、音の氾濫。
第4楽章
序奏、バステューバ安定。木管金管のコラールも落ち着いている。
アレグロ・エネルジコの行進曲は強固な金管、113の先のホルンの斉奏は言うことなし。トランペットも強力。
117からの木管の第2主題も軽快。
冒頭が再現し、展開部へ。
カウベルが舞台袖から聞こえる。チェロの第1主題の断片がなかなか良い音。
大きなクライマックスに向け盛り上がって行くが、弦は豪華。
129の頂点で、第1のハンマーが叩かれるが、ステージ全体を揺るがすような強烈な音ではない。続くトランペットの高音が強烈。再び行進曲が始まるが、落ち着いて進めていく。
「徐々に落ち着いて」の先140で第2のハンマー。トランペットの吹奏が強力。
再現部となり、静かな部分がしばらく続き、ペザンテ(重々しく)から盛り上がり、やっと第1主題行進曲が始まる。劇的な場面が長く続き、ペザンテで勝利するように高揚した直後、練習番号164で三度目のハンマーが鳴らされた。ハープを伴う序奏とともにコーダに向かい、金管のうごめくような音の後、強烈な和音がffで鳴り響き、ティンパニがとどめを刺すように、叩きつけppのピッツィカートで終えた。
ネルソンスは約10秒両手を上げたまま。音楽的な余韻に浸る。ネルソンスのソロカーテンコールとなった。
今日11日の京都と15日の東京でのリヒャルト・シュトラウス「アルプス交響曲」は、BSOの特長が最大限発揮されるのではないだろうか。