Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

自由が丘クラシック音楽祭2022 in 原宿 レポート&コンサート・レヴュー

$
0
0

(11月5日・原宿hall 60「ホールソワント」)
建築家、小林洋子と林秀樹が主宰する音楽サロン「ACTサロンentracte」は、毎年「自由が丘クラシック音楽祭」を開催している。

最初の3回は自宅兼事務所の「ACTサロンentracte」で開催したが、一昨年はコロナ禍のため原宿のhall 60「ホールソワント」で行い、昨年は残念ながら中止。今回2年ぶり5回目を開催した。

 

毎回テーマがあるが、今年は「ウィーン世紀末音楽」。R.シュトラウス、マーラー、コルンゴルト、ツェムリンスキー、ウェーベルン、ベルク、シェーンベルクを取り上げた。

初日のコンサートを聴いた。

 

14時からのコンサートA-1は、松谷壮一郎(まつたにそういちろう)のチェロ、松本望(まつもとのぞみ)のピアノでR.シュトラウス・プログラム。

 

最初に松本望のピアノでR.シュトラウスの歌曲のピアノ独奏版が3曲。いずれも松本の編曲。「夜」「ツェツィーリエ」「万霊節」の3曲。ピアノで弾いたときの作品の魅力を感じさせる。声の部分がピアノの旋律に置き換えられるが、それはそれでピアノの音と言う均質な要素で楽しめる。「万霊節」のようによく知られた作品では、詩の内容があらかじめインプットされているため、自分の頭の中で詩の世界と音楽をミックスして聴いていた。

 

続いて、松本のR.シュトラウスのテーマによる即興演奏。STRAUSSの名を音列にしてテーマとしたとのこと。RA(ラ)、SS(ES,ミ#)、Uはフランス語のド。

演奏は、オクターヴで弾くヴィルトゥオーソ的な部分はリストのよう、松本の言うジャズ的な要素もあった。ダイナミックな演奏で、楽しめた。

 

R.シュトラウス「チェロとピアノのためのソナタ 作品6」は、出演予定だった泉優志(チェロ)が急病のため、急遽代役として、松本が松谷を推薦し、登場となったもの。松本は藝大で松谷の伴奏をして、その才能を知り、自分が諸先輩から育ててもらったように、後輩を育てたいという。直前だったためリハーサルは一度だけで、出たとこ勝負の演奏だという。

 

一度合わせただけとは思えない息の合った演奏。

松谷壮一郎のチェロは気宇壮大。呼吸が深く、旋律線の息が長い。第1楽章のどこかは忘れたが(たぶん再現部?)、聴いていて胸が熱くなる感覚を覚えた。あれは作品なのか松谷のチェロなのか。何かを突き動かす力があった。

 

第2楽章も深みがある。第3楽章は、中間部の松本とのフガートが盛り上がった。

 

松谷壮一郎は第75回全日本学生音楽コンクールチェロ部門大学の部第2位、全国大会第2位ならびに横浜市民賞を受賞している。

松本望は2007年リヨン国際室内楽コンクール第1位及び特別賞(ヴァイオリントピアノのデュオ)、2009年マリア・カナルス国際音楽コンクールのピアノ・トリオ部門第1位。

 

15時からのコンサートA-2はバリトンの小藤洋平(ことうようへい)と、内藤晃(ないとうあきら)のピアノで、マーラー『少年の不思議な角笛』より5曲。『フリードリヒ・リュッケルトの詩による五つの歌曲』。

中では、最後に歌ったリュッケルトの「真夜中に」が出色。作品自体の良さもあるが、歌手が感情をこめやすく、詩と歌が一体となる良さが出るのだと思う。小藤は国立音大卒、ハンブルク音楽院修了。友愛ドイツ歌曲コンクール優勝。

 

ピアノの内藤晃の伴奏がとても良かった。歌手との呼吸があっており、一体感をつくろうという姿勢が良く出ていた。内藤はピアニスト・指揮者。東京外国語大卒。レクチャー、文筆活動も活発で、「音楽現代」「ムジカノーヴァ」にも連載記事を書いている。作曲家の一次資料の収集・研究も行い、W.イェーガー著『師としてのリスト~弟子ゲレリヒが伝える素顔のマスタークラス』(音楽之友社)も邦訳した。

 

16時からのコンサートA-3は、三界秀実(みかいひでみ)のクラリネット、川上徹(かわかみとおる)のチェロ、三界晶子(みかいあきこ)のピアノで、ツェムリンスキーとコルンゴルトのクラリネット三重奏曲。

 

三界秀実も川上徹もそれぞれ新日本フィルの首席奏者を務め、時期も重なっており、かつての同僚同士。それもあってか、三人の音色がよく溶け合う温かい演奏が展開された。

 

ツェムリンスキー「クラリネット三重奏曲ニ短調作品3」は、アレグロ・マ・ノン・トロッポの第1楽章の第1主題は情熱的。第2主題はロマンティック。いずれもブラームス的ではあるが、広がりがある。展開部は激しく動き、時に民族的な味わいも出る。コーダは緻密で、スケールが大きい。三人の音色が陰りを帯びていて、作品にぴったり。

 

三部形式の第2楽章のアンダンテ・コン・モート・エスプレッシオーネは、クラリネットとピアノが美しく歌う。チェロが装飾する。中間部は雰囲気が変わり、よりロマンティックに、劇的になる。やはりクラリネットが主役でピアノをバックに歌い上げていく。チェロはピッツィカートでつけたあと、クラリネットとともに歌う。一瞬クラリネットにドヴォルザークのチェロ協奏曲の主題のようなフレーズが挟まれるのが興味深い。後半は前半よりも修飾が増え、より情感をこめて進む。

 

第3楽章アレグロは、にぎやかなフィナーレ。民族的でハンガリー舞踊的でもある。

情熱的な爆発と素朴なメロディーが交互に出る。コーダは盛り上がった。

 

続いて、コルンゴルト「ピアノ三重奏曲 作品1」より第3楽章(クラリネット版)が演奏された。

 

作曲当時のコルンゴルトは13歳!しかしそれ以前の9歳で書いたカンタータ「水の精、黄金」はマーラーをして「天才だ!」と言わしめ、11歳で書いたバレー・パントマイム「雪だるま」はウィーン宮廷歌劇場で初演されセンセーションを起していた。

このピアノ三重奏曲は4楽章制の大曲。堂々とした第1楽章、自由に変化する第2楽章スケルツォ、後期ロマン派の調性感の拡大を感じさせる第3楽章ラルゲット。循環形式でそれまでの主題が再現する第4楽章フィナーレと、完成された構造を持っていて、隙の無い作品だ。

こうした情報は、当日会場にみえていた早崎隆志さんの力作「コルンゴルトとその時代」(みすず書房刊)で得た。残念ながら、絶版のようで、図書館から借りて読んでいる。アマゾンでは1万円以上の価格となっている。

情報は別から得たが、ウィーン・フィルのコンサートマスター、アルノルト・ロゼのヴァイオリン、同じくウィーン・フィルのチェロ、アドルフ・ブクスバウム、ブルーノ・ワルターのピアノで初演されたというから驚く。

 

第3楽章ラルゲットのクラリネット版は、とても温かい演奏。チェロが瞑想的な主題を温かく弾き始め、クラリネットが続く。親しみやすい音楽はコルンゴルトの持つ特性かもしれない。中間部で高まるがやがて落ち着きを取り戻し、静かに終えた。

 

なかなか生演奏で聴く機会のない作品を紹介してくれた三人に感謝!

 


17時からのコンサートA-4は、漆原啓子(うるしはらけいこ)のヴァイオリン、矢野雄太(やのゆうた)のピアノで、オール・コルンゴルト。
最初は「から騒ぎ」作品11

元々は14曲からなる劇音楽。後に5曲からなる組曲をつくり、さらにピアノとヴァイオリン版もつくった。

今回は「から騒ぎ」からの4つの小品が取り上げられ、「花嫁の部屋の乙女」「ヤマリンゴと桃酒(夜警の行進)」「庭園の場」「仮面舞踏会」の4曲が演奏された。

 

漆原啓子のヴァイオリンのなんと美しいこと、そして強さと輝きのあること。矢野雄太のピアノも実に音楽的で深い。使用ヴァイオリンはストラディヴァリウスだと思うが、ジャパンアーツのプロフィールには書かれていないので、推測です。

 

最後は「ヴァイオリン・ソナタ ニ長調作品6」

さきほどの早崎隆志さんの本の紹介では、作曲は1913年。17歳の時の作品。カール・フレシュのために書かれた。抒情的で青春の一コマ。転調は頻繁、和声も形式も自由。ヴァイオリンの音色を充分生かしている。

 

第1楽章はフランクのソナタを思わせる美しい抒情性があり、第2楽章は激しい転調と目まぐるしい動きのスケルツォ。モルト・カンタービレのトリオは澄んだピアノの分散和音の上にヴァイオリンが清楚なメロディーを弾く。第3楽章は幻想曲風アダージョ。第4楽章フィナーレは優美だが力強いエピソードも含む。

初演はフレッシュとアルトゥール・シュナーベルのピアノで行われた。

 

漆原啓子の演奏は第1楽章から雄大。スケルツォの第2楽章は鮮やかで切れ味鋭い。跳躍しながら進む。第2主題は優雅でウィーン的。ピアノパートが緻密に書かれており、矢野が見事に弾いていく。モルト・カンタービレのトリオもまさにウィーンの良き時代を思わせる。

 

第3楽章アダージョは後の映画音楽で聴かせたロマンティックな表情がたっぷり。ただ時折半音階の激しいフレーズが挟まれ甘さは抑制される。

 

第4楽章は優雅に始まり、モルト・トランクイロではラヴェル的な表情も出る。力強いエポソードのあと、アレグロ・ジョコーソで活発な動きとなる。

漆原、矢野は力強いクライマックスをfffで築いた後、再びテンポを最初に戻し、優雅な世界に入っていった。ドビュッシー的な五音階風な和声まで登場する。そしてクレッシェンドし、ディミヌエンドして静かに終えた。

全曲で40分弱の大曲。

フランクのソナタと較べても、さほど引けをとらない印象。

 

交響曲を1曲聴いたくらいの充実感があった。

 

素晴らしい演奏にこれまた感謝。

 

漆原啓子のプロフィールはみなさんご存じかと思うので、下記をご参照ください。
漆原 啓子 | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ (japanarts.co.jp)

 

指揮者としても活躍している矢野雄太についてはこちらを。
プロフィール - 矢野雄太オフィシャルサイト (yutayano.com)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles