Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

ラン・ラン ピアノ・リサイタル J.S.バッハ「ゴルトベルク変奏曲」

$
0
0

(11月19日・サントリーホール)

プログラムのインタビュー(聞き手:前島秀国氏)によれば、ラン・ランは「ゴルトベルク変奏曲」について以下のように語る。
 

・「ゴルトベルク変奏曲」の録音に慎重だった(20年以上研究した、とグラモフォンのCD紹介にある)。

・演奏スタイルのマスターのために、アンドレアス・シュタイアーに、装飾音の加え方、カノンの役割、アーティキュレーションを詳しく教えてもらった。

・2006年にはニコラウス・アーノンクールから『「ゴルトベルク変奏曲」を弾くには、感情を全て注ぎ込むこと。ベートーヴェンと同じように自由に弾くこと。地球上にたった一人残されたような孤独を表現すること』を学んだ。

・過去の書き込みのある楽譜は捨て、ヘンレ原典版、ベーレンライター版、シャーマー版も参照しながら、白紙から組み立てた。

***********************************************

コンサートはシューマン「アラベスク」から始まった。

「ゴルトベルク変奏曲」の前にこの曲を置く理由についてラン・ランは語っていない。

 

 

「ゴルトベルク変奏曲」は繰り返しを全て行ったので、演奏時間は約100分近くにもなった。

 

以下各変奏ごとに、演奏の特徴を書く。
アリア ゆったりとしたテンポ。

第1変奏 リズムがきっちり、まじめな演奏。繰り返しでは装飾音をつける。

第2変奏 3声のインベンション。安定した演奏。

第3変奏 最初のカノン。ラン・ランは9つのカノン(第3、6、9、12、15、18、21、24、27変奏)が好きだという。作品全体の屋台骨であり、9つのカノンが全体の中でピラミッドのように構成されているとのこと。演奏はたんたんとしており、高音が美しい。

第4変奏 シンプルに演奏。

第5変奏 トッカータ。速い。鮮やかな跳躍。

第6変奏 カノン。鮮やか。

第7変奏 華やかで軽やか。右手の装飾音はCDよりも表情が強調される。

第8変奏 両手の交叉がスムーズ。

第9変奏 3度のカノン。リリカルできれい。これは良かった。

第10変奏 4声のフゲッタ。トリルに元気があって好きな曲。ラン・ランはトリルを華麗に丁寧に弾いていく。4声が明快に描かれる。

第11変奏 両手の交叉が多い曲。ラン・ランは慎重に弾く。繊細な演奏。

第12変奏 行進曲のように堂々とした曲。力強い演奏。ラン・ランは頻繁にペダルを踏む。

第13変奏 最も崇高な曲。これは素晴らしい演奏。全体の情感が、がらりと変わる。ラン・ランの演奏は聴き手を恍惚とさせる。

第14変奏 前曲から目が覚めるような転換。両手の交叉が鮮やか。高音から低音まで動きが激しい。装飾音がたっぷりあり、華麗な演奏。最後はポンと終わり、あっけない。

第15変奏 初めての短調の曲。繰り返しの2回目は弱く、3回目はしっかりと弾く。葬送行進曲のよう。

 

第16変奏 後半の開始を告げる華やかな音楽。壮麗な開始。トリルも力強い。まさにフランス風序曲。フーガは力強い。

第17変奏 勢いのあるトッカータ。華麗なテクニックを披露する。

第18変奏 6度のカノン。ラン・ランはリラックスした感じ。

第19変奏 軽やかに舞曲を弾く。

第20変奏 ヴィルトゥオーソ的なテクニックが必要だが、超絶技巧をラン・ランは披露した。テンポはCDよりも速かったかもしれない。

第21変奏 ト短調の哀しみ。ラン・ランは甘美な哀しみを感じさせる。低音が豊かで、幸せな気持ちにすらなる。

第22変奏 生まれ変わったように感じる曲。すっきりとした演奏で、装飾音もきれい。

第23変奏 バッハ当時のテクニックの限界に挑むような難曲。最初は乗りよく弾いていたラン・ランも、後半は少し苦労していた。ブラヴォ!と叫びたくなる力演。

第24変奏 安らぎのカノン。癒される。

 

第25変奏は「ゴルトベルク変奏曲」の頂点。エベレストのような曲。アンジェラ・ヒューイットは『全変奏曲の中で最も偉大な曲』と呼び、ワンダ・ランドフスカは『黒い真珠』と形容した。ラン・ランは『大好きな変奏だが、最も演奏が難しい。これまで積み重ねてきた音楽が止まり、下降を始める。20分以上かかるベートーヴェンの《ハンマークラヴィーア》の第3楽章に匹敵する』と語る。ラン・ランは約10分かけて演奏した。

最後の倚音(いおん)のG音について、ラン・ランは『この低いG音は全曲の中で1回だけしか登場しないたった一度の孤独なG音です』と語る。アーノンクールがラン・ランに伝えた『地球上にたった一人残されたような孤独』とは、この曲、この音を指していたのかもしれない。ラン・ランは弾き終わったあと、しばらくの間静寂を保った。

 

第26変奏 第25変奏とは全く違う雰囲気の曲。切り替えは難しいが、ラン・ランは見事に表情を変えた。両手が頻繁に交叉する速いトッカータをヴィルトゥオーソのように弾いた。凄い!

第27変奏 最後のカノン。ラン・ランはリラックスして弾く。

第28変奏 リストのようなヴィルトゥオーソ性のある変奏曲。トリルが力強い。エネルギーが衰えない。

第29変奏 「ラン・ラン、来た-!!」と叫びたくなるような圧巻のテクニック。

第30変奏  クォドリペット。CDとかなり雰囲気を変えた。遠くの方から懐かしい人たちが近づいてくるような遠近感を出す。思い出をしみじみと語る雰囲気があった。

アリア 「心が洗われるような演奏だった」、と書きたいところだがスマホの呼び出し音が2回響き、がっかり。2回で止まって良かったが。

 

アンコールはないと思っていたが、何と4曲。
 

中国民謡:茉莉花

ブラームス:ハンガリー舞曲第5番 with Gina Alice Redlinger

奥さんとの4手連弾。ラン・ランは高音部。

アラン・メンケン:ホール・ニュー・ワールド『アラジン』より

ロバート・B・シャーマン&リチャード・M・シャーマン:小さな世界

初めてのディズニーランドは東京だったという。

 

花束贈呈や、子どもたちがステージ近くに駆け寄り、握手やらサインをもらうなど、最近の演奏会では見たことのない光景にびっくりした。

 

ラン・ランの弾く「ゴルトベルク変奏曲」は、「厳格で神聖なバッハ」という面もありつつ、もっと多彩で新鮮、華やかさがあった。

 

ラン・ラン©Harald Hoffmann


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles