(11月26日・サントリーホール)
コンサートマスターはグレブ・ニキティン。フルート首席に東京シティ・フィル首席竹山 愛が入っていた。
シューマン:「マンフレッド」序曲
すっきりと明解なノットの指揮。物語性があり、劇音楽全体も聴きたくなる。
シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
アンティエ・ヴァイトハースをソリストに迎えた。
第1楽章の冒頭は少し大人しい。バリバリ弾くタイプとは正反対の、弱音や繊細な表情、正確なアーティキュレーションを打ち出すヴァイオリニストという印象。聴くのは二度目だが、4年前のブルッフ、メンデルスゾーン、チャイコフスキーというヴァイオリン協奏曲の超名曲を並べた時の覇気に満ちた演奏に較べて、非常に抑制されていたので驚いた。
アンティエ・ヴァイトハース(ヴァイオリン) 齋藤友香里(指揮)東京交響楽団 | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)
ノット東響も、ヴァイトハースと緊密な演奏を展開した。シューマンのロマンティシズムが全開し、ヨアヒムも愛した第2主題をヴァイトハースは気品とともに弾いた。
チェロとファゴットという珍しい導入で始まる第2楽章では、繊細な東響のチェロに乗せてヴァイトハースが極めてロマンティックに美しく入っていく。繊細で幻想的なので、少し眠気を誘う。アタッカで入った第3楽章が夢を覚ますように始まった。シューマンとヨアヒムが思いついたというポロネーズのテンポはかなりゆっくりとしており、気骨があるというより、優雅な演奏。ヨアヒムが苦言を呈したというほど同じ旋律の繰り返しとあふれるばかりの装飾音が続く後半から終結部を、ヴァイトハースは丁寧に弾いていった。
ヴァイトハースのアンコールは、バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」より<サラバンド>。弱音で信じられないほど精巧で完璧。アーティキュレーションのあまりの見事さに圧倒される。音の繋がりがここまで滑らかで、重音が天国的なまでに美しいバッハは聴いたことがない。自然体の極致。録音は完結しているので、いつか日本でバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全曲を演奏してほしい。
ベートーヴェン:交響曲 第2番 ニ長調 op.36
毎年1つずつベートーヴェンの交響曲を取り上げ録音してきたノットのベートーヴェン・ツィクルスの掉尾を飾る第2番。マイクロフォンが立っていたので、間違いないと思う。
生まれたばかりのような印象が強烈だった第1番や《第九》と較べると、第2番はオーソドックスで尖ったところがあまり感じられない。
東響は12型。第1楽章は流麗な演奏だが、もう少し豊かな音がほしい。ヴァイオリンが少し薄く感じられる。
第2楽章も普通に美しいが惹きこまれない。第2主題はもっと歌ってほしい。展開部は短調に傾き、充実していた。再現部の対位法はきめ細かく、ロマンティックな表情もあった。
第3楽章スケルツォはもっと細工をほどこすかと思ったが、正攻法。
第4楽章はようやくノットらしく、生命力と活気が出た。展開部の劇的な迫力や休止が効果的。再現部のあとの長いコーダも動きがあり、ノット&東響の世界に引きずりこまれていく。終わってブラヴォと叫びたくなった。
来シーズンのノット&東響のキャッチフレーズは『フォルテからフォルティッシモのように NOTTからNOTTISIMOへ ── 』だそうで、この段で言えば、ノッティッシモな第4楽章だった。