新書に収められたコンパクトな「オペラ史」。時代別、国別に作曲家と作品をバランスよく選び、歴史的時代的背景から、聴きどころまで、わかりやすく解説した1冊。
読後の感想をまとめてみた。
第一に、語り口がわかりやすい。高踏的ではない。オペラの講座を長く続けている著者が、参加者から投げかけられる質問に対して丁寧に説明するような文体で書かれている。なぜオペラはうるさいと思われるのか、ワーグナーと他のオペラの違い、長い楽劇をどう聴いたらよいのか、などオペラへの入り口を紹介する。
また、音楽に傾きがちではなく、オペラの「題材」に焦点を当て、その歴史的、時代的背景について詳細に解説するなど、オペラを時代から捉えることの大切さ、深く理解するための視点を説く。
第二に、誕生から現代にいたるまで、オペラが歴史の流れの中に明確に位置付けられることで、聴き方のポイントがわかること。
バロック・オペラはいつどのように誕生したのか、どこが面白いのか。パリ・オペラ座の歴史から、なぜバレエの入るフランス・オペラが生まれたのか、なぜフランス・オペラは上演回数が少ないのか。作家のホフマンスタールが台本を書いたR.シュトラウスの「ばらの騎士」がなぜ一般にはわかりづらいのか。など参考になる点が多い。
この本で取り上げられなかった作品や作曲家も、同じように歴史的な背景や時代の特徴に振り分けることで、どう接して行けば良いか、そのコツをつかむことができる。
第三に、オペラの歴史という観点から、現代のオペラと今後の予測、ミュージカルにもきちんと触れていること。
ベルク「ヴォツェック」を最後の章で取り上げ、「オペラは死んだ」とブーレーズの言葉を引用し、ではその後はどうなっていくのかを、具体的な例をあげて予想する。
新書というコンパクトな形の中に、オペラを楽しむコツが数多く散りばめられていると同時に、オペラはこんなにも楽しいものですよ、という著者のオペラ愛が隅々まで感じられ、読む人を選ばない門戸の広さも魅力となっている。