(1月3日・東京文化会館大ホール)
今年最初のコンサートは、昨年と同じく東京文化会館《響の森》「ニューイヤーコンサート2023」へ。プログラムはドヴォルザーク「チェロ協奏曲」とチャイコフスキー「交響曲第5番」という名曲が並んだ。
上野通明の演奏は昨年6月以来約半年ぶりに聴く。その時はデュトワ新日本フィルとのショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番」だった。
曲目の違いもあると思うが、今回聴いた上野は演奏に逞しさが増しスケールが一段と大きくなったように思った。一昨年2021年のジュネーブ国際コンクールチェロ部門の優勝以来、飛躍的に出演回数が増え、その間の演奏経験の積み重ねが血となり肉となっていることを実感した。
しなやかで筋肉質であり、歌う際のフレージングの滑らかさも余裕があり、聴き手を惹き付ける。
ヨーヨー・マが世界文化章の受賞記念記者会見で、上野のコンクール優勝を讃えて、『これで引退できる』と話したエピソードは有名だ。上野自身も5歳の時にヨーヨー・マのビデオを見てチェロを始めたという。まろやかで滑らか、品格のある音はヨーヨー・マと共通する点が多い。
藤岡幸雄指揮都響も、上野に丁寧につけていく。都響の木管群が素晴らしい。特にクラリネット(サトーミチヨ)とフルート(柳原佑介)。それぞれ歌心があり、ソリストのような表現力が光る。ホルンのソロ(西條貴人)や重奏もことごとく決まる。新年早々の限られたリハーサルでここまでまとめあげる上野も藤岡&都響もさすがだ。
上野のアンコール、バッハ「無伴奏チェロ組曲第3番ブーレ』の生命力に満ちた、低音がびしびし響いてくる演奏がまた凄かった。いつか上野が弾く全曲を聴いてみたい。
チャイコフスキー「交響曲第5番」では藤岡が演奏前にプレトークをしたが、その中で『チャイコフスキーは前の第4番を書いている時から同性愛であることに悩んでいた。第4楽章は勝利を掴みきれずに終わっている。異様な感じが伝わるように演奏したい』と語った。
その言葉通り、第4楽章は主部に入ってからの藤岡都響の入れ込み方が半端ではなく、何かに憑かれたように進んでいく。ちょうどこの時、1階下手で気分が悪くなった方が出て、同行者や係員が駆けつける事態が起きた。演奏はそのまま続けられたが、異様な演奏に影響されたということはまさかないだろうが、余りのタイミングにびっくり。その方は演奏後係員に支えられ会場を後にした。自分で歩いていたので大丈夫だと思う。ロビーには救急隊員の姿があった。
藤岡の指揮は若々しく覇気があり、都響もホルンをはじめ木管、金管とも絶好調、弦もコンサートマスター山本友重以下流麗で、チェロ、コントラバスの低弦も分厚い。
これで、オーケストラにいま少し立体的で奥行きのある響きが加われば、さらに素晴らしい演奏になったのではないだろうか。