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山田和樹 ポゴレリッチ 読響 ラフマニノフP協奏曲第2番、チャイコフスキー「マンフレッド交響曲」

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(1月8日・東京芸術劇場)

山田和樹は指揮台に上がるやいなや、客席を向き『明けましておめでとうございます!』と挨拶、振り返りざますぐ指揮を始めた。
チャイコフスキー「《眠りの森の美女》から“ワルツ”」が、16型の読響により華やかに演奏された。山田の指揮は洗練されており、ワルツが流麗に奏でられ、ニューイヤー・コンサートのような雰囲気を醸し出した。

 

続いてイーヴォ・ポゴレリッチが登場。2016年にオレグ・カエターニと今日と同じラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を、さらに2020年2月には山田和樹シューマン「ピアノ協奏曲」を読響で共演している。

その時のレヴューは以前ブログに書いた。
イーヴォ・ポゴレリッチ、オレグ・カエターニ指揮、読響 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ほか | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)


山田和樹 読響 イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)(2月13日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

ポゴレリッチの演奏は7年前と大きく変わってはいない印象。ただ「我が道を行く」という姿勢がより強く感じられた。譜めくりを横に座らせ、イチニイチニとリズムを刻むように、同じような調子でピアノを弾いていく。山田はポゴレリッチを常に注視しながら、16型の読響をドライブしてぴったりと合わせていくが、ポゴレリッチにはオーケストラに合わせよう、あるいは対話しようとする姿勢がほとんど感じられない。読響の響きは充実しており厚みもあるが、ポゴレリッチがオーケストラに絡んでいかないため、これが協奏曲と言えるのだろうかという疑問も浮かぶ。

 

第1楽章で第1主題が再現するマエストーソは山田&読響が絢爛豪華な音を創り出し盛り上がるが、ポゴレリッチはマイペースを保ち冷静に演奏する。

 

第2楽章は、ポゴレリッチがロマンティックにピアノを歌わせることはなく、速めのテンポで無表情に進めていく。山田&読響もそれについていくため、前のめりになり、全体がどこかさばさばとした印象になってしまった。

 

第3楽章は7年前と似た演奏。テンポは遅く、ラフマニノフらしい第2主題も思い入れたっぷりではなく、たんたんと弾く。プレストのフガートもポゴレリッチはマイペースを貫き、山田&読響はそれに合わせていくので、両者がスリリングにからんでいくということはない。ピアノの第2主題の再現も情感をこめないので物足りない。

しかし、コーダ前のソロは豪快に決め、最後は山田&読響が絢爛に演奏する中、ポゴレリッチもしっかりと弾き、両者による重量級の演奏で終えた。

 

山田&読響の演奏は素晴らしい割に、ポゴレリッチが最後までゴーイング・マイウェイを貫くため、両者が一体となる場面は少なく、何かもったいないような気がした。

 

後半はチャイコフスキー「マンフレッド交響曲」

今回の使用スコアはスヴェトラーノフ版が使われた。第4楽章の中盤で大幅なカットがあり、終結部では第1楽章の終結部が再現され、劇的に終わる。このバージョンは2019年6月にスダーン東京交響楽団で聴いた「原典版」と同じものなのだろうか。ウィキペディアによれば、こうある。
『版の違い:

原典版と改訂版の2つの版が存在する。原典版では、終楽章のコーダにおいて、開始楽章のコーダが回想されるが、改訂版ではその後に救いのハーモニウムのコラールが付いているという違いがある。エフゲニー・スヴェトラーノフは「クリンのチャイコフスキー博物館所蔵の自筆草稿を用いた録音」を謳っているが、その詳細については現在のところ不明な点が多い。原典版の演奏時間は約50分で、ドミトリー・キタエンコやマリス・ヤンソンスらがこの版を使っている』

 

個人的には、小林研一郎が日本フィル、読響を指揮したさいにも聴いたオルガンが入り救済の動機が現れ、「怒りの日」の断片とマンフレッドの弔いを示すロ短調の主和音で終わる改訂版のほうが好みではある。

 

折しも同じ時間帯にサントリーホールでは山田和樹の師匠でもある小林研一郎が都響を指揮してチャイコフスキー「交響曲第4番」を演奏していた。

 

版のことは置いても、今日の山田和樹の指揮ぶりは素晴らしかった。

16型の読響を鳴らし切り、引き締まった響きは緻密で隙がない。読響の楽員も持てる力を100%出し切って、山田の指揮に応える。

チェロとコントラバスの低弦が威力を発揮し、土台は盤石。小森谷巧以下ヴァイオリン群も文字通り磨き抜かれた美音。ヴィオラも柳瀬省太以下重厚。第1、第2楽章のアスターティの甘美な主題を奏でる弦の響きが美しい。

バス・クラリネット、オーボエ、フルート、ファゴットなどの木管、金管もほぼ完璧。ティンパニの武藤厚志も深みのある打音を響かせた。
 

山田は、第4楽章の冒頭、160小節にも及ぶ狂踏乱舞の邪神たちの饗宴の場面では指揮台から降りてヴァイオリン群を鼓舞するなど、覇気のある若々しい指揮ぶり。

pppppからffff まで、チャイコフスキー特有のダイナミックの幅を思う存分に広げ、最後までバランスを崩さない演奏を維持する山田の指揮は、若き巨匠とも言うべき安定感があった。

 

山田は最後に『今年もよろしくお願いいたします』の挨拶で締めくくった。

 

1月の読響は「山田和樹月間」。1/13(金)サントリーホール,1/15(日)ミューザ川崎シンフォニーホールで黛敏郎「曼荼羅交響曲」マーラー「交響曲第6番《悲劇的》」を、1/19(木)サントリーホールで矢代秋雄「交響曲」R.シュトラウス「アルプス交響曲」という大曲を振る。いずれも聴きごたえのある演奏になるのではと期待している。


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