Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

ヨーン・ストルゴーズ 都響 ペッカ・クーシスト(ヴァイオリン)シベリウス マデトヤ

$
0
0


(1月20日・東京文化会館大ホール)
フィンランドの指揮者とヴァイオリニストを迎えての北欧プログラム。

都響の音が北欧のオーケストラのようなひんやりとした音に変身しており、指揮者の手腕と同時に、都響の柔軟性適応性にも瞠目した。

 

ヨーン・ストルゴーズの指揮は迷いがなく、一本筋が通っており、ダイナミックかつ繊細。以前読響でも聴いたことがある。
ヨーン・ストルゴーズ 読響 小山実稚恵(ピアノ) | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

シベリウス「カレリア序曲」は、組曲とは別に出版された。中間部に組曲の「間奏曲」の旋律がでるが、初めて聴く作品。ホルン首席に千葉交響楽団首席の大森啓次が入った。昨年12月にはファビオ・ルイージ指揮N響のブルックナー「交響曲第2番」(初稿版)で見事なソロを聴かせたが、今日も安定した演奏だった。オーボエ首席も新日本フィルの神農広樹が務めた。

 

シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」は1995年、フィンランド人として初めてシベリウス国際ヴァイオリン・コンクールで優勝したペッカ・クーシストがソリストとして登場。作曲家、指揮者としても活躍する才人。この作品は恐らく百回以上は演奏しているのではないだろうか。その点は指揮のストルゴーズも同じだと思われる。

 

クーシストの手にかかると、難曲が何の苦もなく、スラスラと弾かれてしまうことに唖然とする。余裕綽々。完全に脱力され、どこにも力みや停滞がない。ヴァイオリニストによっては感情を込めすぎ、熱演・爆演になるところを、冷静沈着、何事もないかのように弾いていく。それでいながら、作品の持つ澄みきった抒情性や、劇的な表情、躍動感を的確に表現する。

 

第1楽章は繊細な弦の刻みの上で第1主題を軽やかに提示、カデンツァ的な部分をさらりと弾く。第2主題もひんやりとした表情。長いトリルも余裕。第3主題を出す都響はダイナミック。
クーシストはカデンツァを聴衆に語りかけるように、ゆったりと丁寧に弾いた。音程の正確さはこのカデンツァの理想形とも思える。
再現部ではヴィオラと対話しながら楽々と進めて行き、コーダはビシッと決めた。

 

第2楽章はクラリネットとオーボエが導入部をくっきりとした音で吹く。

クーシストは余り感情を込めず、主題をさらりと弾いた。ストルゴーズは繊細に付ける。劇的な中間部は弦の分厚い響きと共に豪快に指揮した。

再現部のクーシストのヴァイオリンはクールで、情感を入れすぎない。コーダの弱音が絶妙。

 

第3楽章のロンド主題を正確な音程で楽々と軽やかに弾いていく。

副主題のオーケストラも充実。それを重音で繰り返すクーシストも余裕があり、音が濁らない。

続くフラジョレットの高音を彼ほどたやすく弾くヴァイオリニストを見たことがない。

コーダのオーケストラとのタイミングは完璧だった。

 

聴衆の拍手も盛大で、アンコールは2曲。
最初はKopsin Jonas(フィンランドの民謡)。飄々としたクーシストの表情がユーモラス。

2曲目はELIA(フィンランドの民謡)から繋げてJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV 1006より IV.メヌエットI」を弾いた。バッハがまるで民謡のように聞こえ、区別がつかなかった。音程を半音下げて繋げたと、ある方から聞いた。彼の弾くバッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータは、特に舞曲がこうした表情があるとのこと。

 

そういえば演奏前、クーシストがコンサートマスターの山本友重に何か話しかけていたが、ひょっとして一緒に弾かないかと誘っていたのかもしれない。

こんな映像がyoutubeにあった。もしそうなら、山本との二重奏が聴きたかった。
Pekka Kuusisto & Malin Broman: Swedish and Finnish encore on Brexit Day - YouTube

 

後半はレーヴィ・マデトヤ(1887-1947)の「交響曲第2番」
シベリウスに師事し、パリ、ウィーン、ベルリンで学び多様な作風を身に着けた。作品はフィンランド内戦で兄を失ったマデトヤの悲しみが反映されていると言われる。マデトヤの3つの交響曲の中で最も劇的で、重厚かつロマンティック。最初の2つの楽章は、不吉なクライマックス以外は、叙情的で牧歌的ですらある。第3楽章は、戦争を彷彿とさせる攻撃的な行進曲。終楽章は諦観に満ちている。

 

ストルゴーズは、ヘルシンキ・フィルとともにマデトヤの交響曲全集を完成させており、第一人者として自信に満ちた指揮を聴かせた。
リハーサルの様子が都響のサイトにアップされている。

マデトヤ:交響曲第2番 変ホ長調 op.35 リハーサル/ヨーン・ストルゴーズ/東京都交響楽団 - YouTube

 

第1楽章は魅力的な抒情溢れる主題が透明感のある弦で奏でられ、展開部では別の動機で激しいクライマックスを築く。

 

第2楽章ではバンダオーボエ(上手側:大植圭太郎)ホルン(下手側:岸上穣)が、こだまのように旋律を交わしあう。フィンランドの自然が感じられる。フルートの刻む独特のリズムの上に、懐かしさを感じさせるメロディーが弦で弾かれ、様々な楽器が加わる別の主題が高揚して行く。シベリウスと一聴似ているが、マデトヤの個性がはっきりと出ている。

 

 第3楽章は、戦争の悲劇と緊張を表すようだ。トランペットが炸裂し、ショスタコーヴィチ的な行進曲が続く。コーダではストルゴーズが都響から切れのある壮大な響きを引き出した。徐々に静まり、次の楽章にそのまま入っていく。

 

第4楽章はエピローグ風で5分弱と短い。一瞬悲劇的に盛り上がるが、闘いの終わりを告げるように、音が静まって行った。

 

マデトヤはシベリウスの陰に隠れ演奏機会は少ないが、もっと取り上げられてもいい作曲家だと思う。

         

写真©都響

#ストルゴーズ #クーシスト #都響 #シベリウス #マデトヤ #東京文化会館


 




 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles