ジョゼ・ソアーレスはブラジル、サンパウロ市出身、2021年第19回東京国際コンクール〈指揮〉で第1位、及び聴衆賞受賞。その時のオーケストラが新日本フィルで、ソアーレスの指揮に惚れ込んで今回招聘したと聞いた。
最初のヴィラ・ロボス「ブラジル風バッハ第4番より Ⅰ前奏曲、Ⅳ踊り」 は、ヴァイオリン・セクションのアンサンブルがバラバラで音も美しくない。デュトワの猛特訓と極度の集中力を使うコンサートの疲れから、新日本フィルの楽員たちも気が抜けてしまったのだろうか。ソアーレスの指揮の問題というよりも奏者たちがあまり乗っていない印象。
村治佳織を迎えたロドリーゴ「アランフェス協奏曲」も、テンポがまったりとしており、新日本フィルがもうひとつ元気がない。第2楽章のイングリッシュ・ホルンはなかなか良かった。村治の弾く「アランフェス協奏曲」はこれまで小林研一郎指揮都響、カー・チェン・ウォン指揮日本フィルで聴いているが、今日はそれらの演奏よりも低調だった。
ただ、村治のアンコール、ビージーズの歌った「愛はきらめきの中に」(How Deep Is Your Love)<映画「サタデー・ナイト・フィーバー」使用曲>は、旋律の良さとともに、心に響く演奏だった。
後半は、ようやくソアーレスと新日本フィルの演奏に活気が出た。
今年没後40周年を迎えるヒナステラ(Program Notesには言及がなかった)のバレエ音楽『エスタンシア』組曲 は、第1曲「農場で働く人々」第3曲「牧場の牛追い人」に野性的なリズムと切れがあった。第4曲「終幕の踊り(マランボ)」は、ドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの定番曲。マランボのリズムはさらに過激にしてほしかった。
プログラム最後は、ビゼー:《アルルの女》組曲第1番(全曲)、組曲第2番より間奏曲、ファランドール。
組曲第1番の「前奏曲」は、中間部のアルト・サクソフォンが美しい。後半の主人公フデデリの苦悩は劇的に表現された。
第2曲「メヌエット」のトリオ部分でのアルト・サクソフォンとクラリネットも味わいがある。
第3曲「アダージェット」のヴァイオリン群は、前半とはうってかわって繊細な美しさがあった。
第4曲「カリヨン」ではホルンが息の合った斉奏。首席は日髙剛。
組曲第2番第2曲「間奏曲」の前奏は弦が重厚。主題をアルト・サクソフォンが美しく歌い上げた。
第4曲「ファランドール」はファランドールの主題と三人の王の主題が組み合わされるフィナーレはクライマックスへ運ぶソアーレスの指揮が巧みで、熱狂の中にも、地に足が着いた落ち着きが感じられた。
アンコールは《アルルの女》組曲第2番から第3曲「メヌエット」。フルート首席の野津雄太のソロは安定しいるものの、やや平板で、もう少し奥行きやふくらみ、色彩感もほしい。
ソアーレスはこの後。広島交響楽団や名古屋フィルハーモニー交響楽団も指揮する。7/19の広響の呉公演は角野隼斗がガーシュウィン「ピアノ協奏曲ヘ調」を弾くので、完売だろう。他にバーンスタイン「ウエスト・サイド・ストーリー」など。
7/22の名フィルとのプログラム、仙台国際音楽コンクールのヴァイオリン部門優勝者中野りなをソリストとするサン=サーンス「ヴァイオリン協奏曲」とメンデルスゾーン「交響曲第3番《スコットランド》」はどんな演奏になるのか興味深い。