ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」のソリストは中村太地(なかむらだいち)。プロフィールはブログの最後をご覧ください。
13年前の中村のヨーロッパ・デビューもこの作品だったので、おそらく自信もあるのだろう。癖のない正統的な演奏で、音色はどこまでも美しく、堂々としていた。
エンリコ・オノフリとハイドン・フィルは中村の行き方に合わせ、特別過激な演奏をすることはないが、第1楽章再現部や、カデンツァ直前は激しく豪快に鳴らしていた。
第2楽章ラルゲットはゆったりとしたテンポ。ハイドン・フィルのピッツィカートをバックに中村は美しく歌い上げた。
第3楽章はハイドン・フィルに古楽オーケストラらしい、とがって濁りのある音も出る。中村はロンド主題を端正に、感傷的な第2副主題を甘く弾いた。カデンツァの響きが美しい。最後のクライマックスも力がみなぎるソロで、ハイドン・フィルと同化していた。
中村のアンコールは、バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番から サラバンド」。
バッハはやや単調に感じた。振り返ってみると、ベートーヴェンもバッハのように少し一本調子だったかもしれない。音程も正確で、音も磨かれ艶があり、フレーズもたっぷりとしてよく歌うけれど、その先にあるものは、あまり聞こえてこない。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はなかなか名演に出会わない。これまで聴いた中では2016年10月15日、イザベル・ファウスト、ノット東京交響楽団の演奏が最も感銘が深かった。
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 イザベル・ファウスト | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)
後半は、5日前浜離宮朝日ホールでも聴いた
ヨーゼフ・ハイドン 「交響曲第96番 ニ長調 Hob. I:96 《奇蹟》」。
二度目なので、初めて彼らの演奏を聴いた時ほどの衝撃はないが、極めて新鮮なハイドンであることは変わらない。
第1楽章は展開部とコーダの激しさが、ベートーヴェンを先取りしているようだ。
第2楽章はフォルテが強調され、ト短調の中間部も前回同様の激しさ。長大なコーダではコンサートマスターと第2ヴァイオリン首席が美しく対話を交わした。
第3楽章メヌエットは堂々として切れがあり、スケルツォのよう。トリオのオーボエ(モダン楽器)は前回同様によく歌う。
第4楽章フィナーレ、ヴィヴァーチェ・アッサイ
ロンド主題そのものは単調だが、オノフリはヴァイオリンの付点と低弦のアクセントを強調し推進力をつける。展開部風のミノーレのエピソードは嵐のように激しく、コーダはスフォルツァンドを強調し、強烈に終えた。
オノフリとハイドン・フィルのハイドンは、今現在、最も鋭く激しい演奏スタイルのひとつであることをあらためて認識した。
中村太地 プロフィール
北九州市出身。高校卒業後ウィーンへ渡り、ウィーン国立音楽大学でM.フリッシェンシュラーガーに師事。さらにベルギーのエリザベート王妃音楽大学でA.デュメイに師事する。2010年ブルガリアのシメオノヴァ国際コンクール優勝後に審査委員長A.スタンコフ氏にその才能を認められ、直後にソフィアフィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を共演し、20歳でヨーロッパ・デビューを果たす。
2012年ハチャトゥリアン国際音楽コンクール、14年クライスラー国際コンクール、16年ロドルフォ・リピツァー国際コンクール他で多数入賞及び特別賞受賞。2017年、第24回ブラームス国際コンクールで日本人初の優勝を果たす。
ヨーロッパと日本を中心に演奏活動を行い、九響、セントラル愛知響、名フィル、新日本フィル、ソフィア・フィル、サンクトペテルブルク響などのオーケストラと共演するほかフィンランド・クフモ室内楽音楽祭に度々招かれ出演。また、サントリーホール、ザ・シンフォニーホール、響ホールをはじめとするホールでリサイタルを行っている。
2019年ビクターエンタテイメントよりデビューCD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集』(ピアノ:江口 玲)をリリース。
使用楽器は1738年製グァルネリ・デル・ジェス“ソフィー・ハース”(北山コーポレーション・北山英樹氏より貸与)。