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Channel: ベイのコンサート日記
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フェスタサマーミューザ ノット 東京交響楽団 オープニングコンサート 

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7月22日・ミューザ川崎シンフォニーホール)

ジョナサン・ノット東響が初めてチャイコフスキーの交響曲を演奏した。東響は16型、対向配置、コンサートマスターはグレブ・ニキティン

 

プログラムに「チャイコフスキーへのチャレンジ」と題したノットへのインタビュー記事が掲載されている。

その要旨をまとめると

①   チャイコフスキーは西欧の和声や構造をロシアの民族音楽と融合させた。

②   ふだん我々が聴くチャイコフスキーは単にダイナミックで暴力的なパワーで興奮を作り出すだけ。交響曲演奏のほとんどは粗暴すぎ、騒々し過ぎる。

③   チャイコフスキーの色彩感は単純な暴力性よりはるかに大きく彼の天才性を物語る。

④   私たちは旧来の観点を壊さなければならない。チャイコフスキーの詩性(ポエトリー)を表現したい。

 

結果は、まさにこの言葉を具現化した素晴らしい演奏となった。

チャイコフスキー「交響曲第3番《ポーランド》」は、パリ風の華やかで色彩感のある音が満載。小澤征爾パリ管弦楽団のチャイコフスキーや、今年聴いたマケラパリ管の華やかな音を思い出した。

 

ノットが言う通り、ヨーロッパ音楽とロシア音楽がミックスされ、洗練されたチャイコフスキーとなった。ヨーロッパ音楽に魅了された作曲家自身もこういう演奏を好んだのではないだろうか。

 

第1楽章のアレグロは爽やかで明るい響き。弦の音がキラキラと煌めくよう。オーボエの荒絵理子の第2主題のソロが清澄に響く。

 

第2楽章アラ・テデスカ(ドイツ風に)のレントラーの主題を弾くチェロも明るい響き。

ヨーロッパ音楽にロシア風味が加えられた面白さを味わう。

 

第3楽章アンダンテの抒情性が甘美。ファゴットとホルンのソロも見事。いずれもロシア音楽風の旋律だが、音は暗すぎず重くない。第1ヴァイオリンとフルートのいかにもチャイコフスキーらしい憂愁と憧れに満ちた第2主題にも、洗練された響きがあった。

 

第4楽章スケルツォの弦が繊細。時々ロシア的なフレーズが出て、エキゾチックな雰囲気を醸す。チャイコフスキーのエキゾチズムが洗練されたヨーロッパ音楽にスパイスのような味わいを与えていると思った。

 

第5楽章フィナーレは、曲名の由来となったポロネーズで華やかに軽やかに進んでいく。重くならず色彩感に溢れ颯爽と進む。

ロンド主題によるフーガの弦もすっきりとして分離が抜群。コーダは木管、金管が高らかに祝典的な第1副主題を鳴らし、ティンパニ、金管の壮麗な強奏とともに豪快に終えた。

 

この曲の生演奏を聴くのはこれが初めてだが、同時にこんなに洗練されたチャイコフスキーを聴くことも珍しい。

4年前ミンコフスキ都響「交響曲第6番《悲愴》」を聴いたとき、『爽やかなフランスの秋空のような《悲愴》』と思ったが、ノット東響「交響曲第3番《ポーランド》」は、『ニースのカーニバルのような華やかなチャイコフスキー』とでも言えるかもしれない。ミモザの黄色い花が咲き誇るような明るい響きに満ちていた。

 

後半のチャイコフスキー「交響曲第4番」は、基本的には第3番と同じく華やかで色彩に溢れた演奏だったが、よりダイナミックな音が洗練した響きとバランスを保ちながら、壮大に鳴り響いた。

 

ノットは、一般に演奏されるチャイコフスキーは粗暴すぎ騒々し過ぎるというが、ノットのつくるフォルティッシモはフォルティティッシモくらいの強烈なインパクトがある。第1楽章冒頭の運命のファンファーレが決然と終わる13小節目の和音がその典型だ。

 

この第4番は迫力の点でも、爆音で鳴らす他の指揮者たちに引けを取らないダイナミックな演奏だった。違いは内声部まで透けて見えるように明解な構造を示すこと、第3番でも顕著だった木管金管の色彩感のある響き、そして弦の洗練された響き。

 

第1楽章は金管の切れと輝きが抜群。今日で退団するトランペット首席佐藤友紀も、気合の入った演奏を聴かせていた。

 

第2楽章の荒絵理子のオーボエにいつもながら魅了される。伸びやかで清潔、気品がある。中間部はテンポが速く、農民舞曲の泥臭さは皆無。さらりとしていた。

 

第3楽章の幅広く柔らかに、かつ豊かに鳴るピッツィカートにも魅了された。

 

第4楽章は強烈な金管が気持ちよいくらい痛快に鳴り響いた。抜けがよく、カラリとした華やかな音がする。弦の響きはますます磨き抜かれ、これまた爽やかで華があり、キラキラしている。木管もフルートをはじめ華やかだった。

 

運命動機のファンファーレが最後にもう一度鳴り渡り、快速でコーダに向け疾走していく。その流れはスムーズでこれしかないという絶妙のバランスで最強音が鳴り響いた。世界がぱーっと明るくなるようなカタルシスを味わった。

 

プログラムの副題『ノット新章の予感!』がまさに的中した。ノット東響によるチャイコフスキーの交響曲の残り、第1番《》、第2番、第5番、そして第6番《悲愴》をぜひとも聴きたい。

 

いつものようにノットのソロ・カーテンコールとなったが、一度では終わらず、二度目にはトランペットの佐藤友紀を伴って現れた。

 

今日から8月11日まで開催されるフェスタサマーミューザKAWASAKI2023。
今日は4年ぶりに歓喜の広場で「オープニングファンファーレ」も演奏された。

 

 



 


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