園田隆一郎は白寿ホール「トラジック・トリロジー」シリーズでの見事なピアノと歌手陣のリードぶりを知っていたが、オーケストラを指揮するのは今回初めて聴く。
神奈川フィルは12型。コンサートマスターは石田泰尚。ウェーバー/歌劇「オベロン」より序曲は、冒頭からヴァイオリン群の音が滑らかで、フレージングも流麗。生き生きとした表情は、オペラ指揮者園田らしい。
休憩後の《第九》。第1楽章から第3楽章まで、ほぼイン・テンポで進む。きれいな響きで、盛り上げるところはきちんとなされるが、全体的に単調で、もう少しテンポを動かしたり、アゴーギクをつけ変化を与えても良いのではと思った。第2楽章スケルツォのトリオでのホルンのソロが決まる。第3楽章、第5変奏の3番ホルンのソロはまずまずの出来。
このまま終わってしまうのかなと少し落胆したが、アタッカで入った第4楽章は見違えるように活気に満ちた演奏となった。その立役者は園田隆一郎の声楽陣に対する的確な指揮とオーケストラとのバランスの良さ、プロフェッショナルなメンバーが集まった神奈川ハーモニック・クワイア40名の正確な合唱。
ソリスト4人の中ではバリトンの青山貴が冒頭の「おお友よ、こんな音ではない!」から明確な発音によるホールの隅々まで響く力感にあふれた声で際立っていた。
合唱は「そしていま神の御前に立っているのは知天使ケルビムだ」のvor Gottの集中と切れが良かった。
アラ・マーチの管弦楽の間奏後の合唱も各パートがピタリと合っており、引き締まる。
アンダンテ・マエストーソで初めて登場するトロンボーンのソロも見事。「抱き合うが良い、幾百万の人々よ」の合唱も明解で力強い。
ソリストによる最後の四重唱のアンサンブルがよくまとまっていた。
コーダのクライマックス、「歓喜よ、神々の美しい火花よ、楽園からきた娘たちよ!」の合唱とオーケストラの高揚も一体感があり、プレスティッシモで演奏が終わると、間髪入れずブラヴォが起こった。
園田隆一郎の声楽作品における的確な指揮が強く印象に残る演奏会だった。
園田隆一郎(指揮)
神奈川フィルハーモニー管弦楽団(管楽器)
迫田美帆(ソプラノ)
福原寿美枝(メゾソプラノ)
澤﨑一了(テノール)
青山貴(バリトン)
神奈川ハーモニック・クワイア(合唱)
曲目:
ウェーバー/歌劇「オベロン」より序曲
ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付き」