Quantcast
Channel: ベイのコンサート日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

川瀬賢太郎 神奈川フィルハーモニー管弦楽団「モーツァルトへのオマージュ」

$
0
0




(85日、ミューザ川崎シンフォニーホール)
 川瀬賢太郎が常任指揮者を務める神奈川フィルとの演奏を初めて聴く。川瀬は、これまでも東京フィルや母校東京音大のオーケストラで聴いてきたが、すごく才能のある指揮者だということを改めて確認した。

 

 何がすごいのか。まずは、音楽の生命力とエネルギー。内から湧き起る強い力に満ちた音楽は、聴く者の心を鷲掴みにする。身体を抱えられて上下左右に揺さぶられるようだ。その一方で、繊細な弱音のコントロールも神経が通っている。フレーズの作り方もよく研究されており、譜読みの深さを感じる。

 本番前の公開リハーサルも聴いたが、ゲネプロで通して指揮した。修正や注意は最小限だが、例えばモーツァルト「フィガロの結婚」の木管の出だし、最初の7小節目までを一息でひとつのフレーズとして吹いてほしい、などきめ細かい。

 

 今日の白眉は、R.シュトラウス歌劇「ばらの騎士」組曲。特にアンコールとしても演奏された、スネアドラムの導入から始まる華々しい終曲の爆発力は凄まじかった。神奈川フィルが緊密にまとまり、響きの密度をとことん濃くしたうえでの強奏は、分厚い音の塊となって向かってくる。

 1曲目、モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」序曲でも、コーダに向かって、ダイナミックの幅がそれまでの何倍も広がって行くさまは爽快だった。

 

 繊細さと言えば、後半ソプラノの高橋維(たかはしゆい)を迎えたR.シュトラウスの代表的歌曲4曲(「わたしは小さな花束を編もうとした」「明日には!」「セレナーデ」「万霊節」)の、オーケストラ伴奏が素晴らしかった。高橋の歌唱は、繊細であり情感も出ていたが、その表現の幅と奥行きが狭くやや浅い。一方で、コンサートマスター石田康尚のソロを始め、川瀬の指揮がシュトラウスの濃厚で繊細な音楽をゆったりと聞かせてくれた。

 

 神奈川フィルの首席二人(ヴァイオリン:崎谷直人、第1コンサートマスター、ヴィオラ:大島亮)によるモーツァルトの協奏交響曲変ホ長調K.364は楽団員ならではの一体感や、音やフレーズの共通性が感じられ、この曲にぴったりだった。

 

 川瀬賢太郎の指揮でひとつリクエストがある。それは「ワルツ」。数年前、東京フィルとのベルリオーズ「幻想交響曲」でも、第2楽章舞踏会のワルツがどこかぎこちなかったが、今日も「ばらの騎士」の「ワルツ」は遊びがなく、硬さが感じられた。ウィーン風の優雅で洒落た感覚のワルツが聴けたら、更に良かった。

 

写真:(c)Yoshinori Kurosawa


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1645

Trending Articles