ニュー・イヤーにふさわしくヨハン・シュトラウス・ファミリー・プログラムだが、知られざる曲が多い。最初と最後にラヴェルのワルツを置くという『他人と違う新しいことをやりたい』上岡らしさが全開。
下記のうちラヴェル以外で聴いたことのあるのは、3と7、10だけ。
1ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
2ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・マズルカ「踊るミューズ」op. 266
3J.シュトラウス2世:ポルカ・シュネル「狩り」op. 373
4J.シュトラウス2世:ワルツ「東方のおとぎ話」op. 444
5J.シュトラウス2世:歌劇『騎士パズマン』op. 441 よりチャルダッシュ
6J.シュトラウス2世:ロシアの行進曲風幻想曲 op. 353
7J.シュトラウス2世:ワルツ「加速度」 op. 234
8エドゥアルト・シュトラウス:ポルカ・シュネル「電気的」
9J.シュトラウス2世:ポルカ・マズルカ「女性賛美」op. 315
10J.シュトラウス2世:新ピッツィカート・ポルカ op. 449
11J.シュトラウス2世:ワルツ『北海の絵』 op. 390
12ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩 「ラ・ヴァルス」
上岡の指揮は、ドイツの歌劇場で長い間活動した経験が生かされていて、シュトラウス・ファミリーの作品の雰囲気が実に良く出ている。ウィーン風の二拍目にアクセントを置くワルツは本場に近いと感じた。いかにもワルツやポルカを楽しむ紳士淑女の光景が浮かぶようなしゃれた味わい。19世紀から世紀末にかけてのヨーロッパの憂愁と退廃の雰囲気を、上岡のように醸し出すことのできる指揮者は日本にはいないだろう。
しかし、演奏は雰囲気だけの表面的なものではなく、隅々まで神経を行き届かせた真剣さがある。たとえば「踊るミューズ」の激しいコーダや、歌劇『騎士パズマン』チャルダッシュの生命力にあふれた表現、ワルツ『北海の絵』の開始の重厚さなどは、シュトラウス・ファミリーが娯楽だけに終わらないことを示す。
ラヴェルは2曲とも繊細緻密で、色彩感とエネルギーが素晴しかった。
アンコールのJ.シュトラウス2世喜歌劇「こうもり」序曲は、この日最高の出来だったかもしれない。「ロザリンデの嘆き」のメロディーを奏でる古部賢一のオーボエと白尾彰のフルートの絶妙のハーモニーと続くヴァイオリンのシルクのように柔らかく繊細な響きには唸った。シャンペンの泡が沸き立つような軽やかさと華やかさ、心が躍る楽しさ、そして憂愁に溢れた演奏。上岡敏之の指揮する「こうもり」の楽しさが目に浮かぶ。
上岡はオペラ演奏会形式はやらないと、記者会見で返事していたが、こういう演奏を聴いてしまうと、何が何でもやってほしいとリクエストしたくなった。
写真:上岡敏之(c)K.Miura