(1月14日、サントリーホール)
毎年ソニー音楽財団が主催するチャリティ・コンサート。プログラムはニューイヤー・コンサートで、前半がオペラの抜粋、後半はストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。指揮は大野和士、管弦楽は東京都交響楽団。会場は満席。
ヴェルディ歌劇「椿姫」より『乾杯の歌』はグラスを手にした大村博美(ソプラノ)と笛田博昭(テノール)が、二人だけだが充分な声量で盛り上げた。『ああ、そはかの人か』~『花から花へ』での大村博美は、『花から花へ』最後の最高音部をコントロールして安定した歌唱だった。
ビゼー歌劇「カルメン」『恋は野の花(ハバネラ)』『ジプシーの歌』を歌った脇園 彩(わきぞのあや メゾ・ソプラノ)は初めて聴いたが、大変な逸材だ。すでに批評家の間で大評判になっていたので、今日聴けて幸運だった。イタリアで活動しており、昨年ロッシーニ・オペラ・フェスティバル「試金石」主役でデビュー。長い黒髪のエキゾティックな風貌と大胆な赤のドレスという外観だけではなく、身のこなし、マナーを含め、登場した瞬間に聴衆を惹きつけるオーラがある。それは海外の一流歌劇場で活躍できる本物の歌手でなければ発せられないものだ。脇園にはそれがある。
ロッシーニ歌手だけあって声量で押すのではなく、カルメンのキャラクターを深く掘り下げた表現力で聴かせる。フランス語の発音も歌詞に乗って自然に聞こえた。スター誕生と言っていいだろう。
脇園に負けてはいられないと、大村博美と笛田博昭は、プッチーニ歌劇「ラ・ボエーム」から『冷たき手を』『私の名はミミ』『愛らしい乙女よ』で、素晴らしい歌唱を聴かせた。二重唱『愛らしい乙女よ』で舞台から袖に消えて歌う「アモール!」は感動を呼んだ。
大野和士の指揮で気になることは、演奏表現に力が入り過ぎていること。1曲目のヨハン・シュトラウス2世喜歌劇「こうもり」序曲は、昨日上岡敏之と新日本フィルのカルロス・クライバーを思わせる名演を聴いたばかりなので、大野の硬さが気になる。音と音の間に余裕がなく、しゃれた味わいが出ない。
それは後半のストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)も同じ。金管の音が最強音でつぶれてしまい濁る。ニューイヤー・コンサートでもあり、あまり固いことは言いたくないが、今月は大野和士都響を聴く機会も多いので、厳しいかもしれないが、一言書かせていただいた。