(1月27日、サントリーホール)
シベリウスのヴァイオリン協奏曲を弾いたアレクサンドラ・スムはモスクワ生まれ。ブロムシュテット、ネーメ・ヤルヴィ、ソヒエフといった巨匠指揮者との共演を重ね、スイス・小澤征爾国際アカデミーに長年参加、小澤の信頼も得ている。学校や病院、ホームレス施設、刑務所へ出向き演奏するなどボランティア、アウトリーチ活動にも取り組んでいる。
スムの演奏は情熱的で明るく、スケールが大きい。ヴァイオリンを豊かにたっぷりと歌わせる。艶やかな美音が会場いっぱいに広がる。第1楽章第2主題はとても美しかった。ただ少し地味な経過的な部分で一瞬集中力がなくなる時がある。また弱音での表情が単調に感じるところもあった。音楽が内省的になると、まだ深みを出せないのかもしれない。第3楽章は熱く盛り上がっていったが、最後のコーダは少し集中が切れたように感じた。若いので、これからまだ伸びるヴァイオリニストだろう。
小林研一郎のブルックナー交響曲第7番は、第4楽章コーダが素晴らしかった。金管の総奏に力が漲り、壮麗で壮大な世界を築き上げた。
ただ、そこに至る過程では、さらに上を求めたいと思う部分も多くあった。例えば第1楽章では、演奏の良し悪しを瞬時に表す肝となる、冒頭チェロの第1主題の表情に深みがない。ひとつひとつの音にもっとニュアンスを与えてほしい。第1楽章コーダの金管のハーモニーが雑に感じる。
第2楽章では、第2主題を意外にあっさりと流してしまう。ここはさらに繊細な優しさがほしいと思う。第184小節からのワーグナーテューバ、ホルンによるワーグナー追悼の葬送音楽も厳粛な悲しみをあまり感じさせない。第3楽章スケルツォのトリオも、細やかな表情がほしい。
最後にあれだけの高みを築く力量が小林研一郎と日本フィルにはあるのだから、こうした要望もいつか満たしてくれるのではないだろうか。
日本フィルは大健闘だった。ゲスト・コンサートマスターは徳永二男。新日本フィルのヴァイオリン群は美しい響きを創っていた。フルート首席に新日本フィルの荒川洋が入り、随所で見事なソロを聴かせた。
写真:小林研一郎(c)Satoru Mituta