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Channel: ベイのコンサート日記
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マルク・ミンコフスキ(指揮)レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

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226日、東京オペラシティコンサートホール)

 レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルに、古楽オーケストラの理想形を聴く思いがした。すべての音が明晰に響き、曲の構造がはっきり透けて見える。ヴィブラートは必要に応じてかけるが、ヴァイオリンには透明感と切れ味の良さだけではなく、密度が濃い強靭と言ってもいいほど張りと輝きがある。チェロやヴィオラの響きは切ったばかりの木の匂いがする。オリジナル楽器の木管群はテクニックが抜群。特にクラリネット、そしてフルート、オーボエも。ナチュラル・ホルンも完璧だ。


 メンバー個々の演奏能力の高さに目を見張るが、ミンコフスキのすごいところは、優秀な古楽オーケストラを使って、極めて現代的で新しい音楽を創り上げていることだ。彼は、作品の構造の透明感と明晰な響きを、古楽オーケストラを使って実現しようとしている。歴史的考察は踏まえているが、それが目的ではないと思う。

今日はオール・メンデルスゾーン・プログラムだが、現代オーケストラが演奏するとロマン性が強調され厚ぼったい響きとなるところを、全て吹き飛ばすような新鮮さと先端性を感じた。

 

「フィンガルの洞窟」からミンコフスキとレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの魅力が全開。海や逆巻く波を表す第2主題を弾くチェロの響きと、クラリネットのソロがもぎたての果物のように新鮮。

 

ミンコフスキは拍手に応えず、指揮台と譜面台を少し動かし、すぐ次の交響曲第4番「イタリア」を始めた。
 ミンコフスキから発散される瑞々しい音楽は、瞬時にしてレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルに伝わり、自発的な音楽として対向配置のヴァイオリンから、主題が飛び出してくる。ファゴットとクラリネットの第2主題の柔らかな音は、オリジナル楽器ならではの響き。

 

2楽章では、チェロが刻む心地よい響きに乗って歌うフルートとオーボエがきれいに浮かび上がってくる。これこそレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの魅力のひとつ。

3楽章のナチュラル・ホルンの重奏は何とも言えない味わいがある。

速いテンポで進む第4楽章のタランテラのリズムに乗って現れる高速の弦の切れ味には快感すら覚えた。

 

 後半は長大な交響曲第3番「スコットランド」だが、演奏前にミンコフスキは聴衆に向かって英語で語りだした。それは意外に長く、レクチャーのようでもあった。すべて正確に聞き取れなかったので、以下は間違いがあるかもしれない。ご指摘いただけたらありがたい。

 

ミンコフスキの話:

『再びこの素晴らしい音響のホールに来られてうれしい。メンデルスゾーンはドイツの作曲家だが、英国に関係が深い。最初のフィンガルしかり、このスコットランドしかり。スコトランドと言えばツイードが有名。日本のご婦人方にも人気がある。スコットランドは歴史的に最も重要な国。もちろん日本もだけど(笑)。この曲を書いたきっかけになったホリールードハウス宮殿では自動ガイドの音楽にも使われている。この曲からは羊など動物の声も聞こえてくる。第4楽章はジャズの要素もある。もちろんメンデルスゾーンの時代にはジャズはなかったけれど。この楽章をつい最近亡くなったジヤズ・ヴァイオリニスト、ディディエ・ロックウッドに捧げたい。ステファン・グラッペリのような素晴らしい奏者だった。』(筆者注:ディディエ・ロックウッド(1956-2018)はフランス、カレー生まれのジャズ・ヴァイオリニスト。)

 

 さて、肝心の交響曲第3番「スコットランド」だが、正直いまひとつだったのは残念。もちろん素晴らしい演奏ではあるのだが、前半ほどの集中力と輝き、緻密さが感じられなかった。ミンコフスキの話が長くなり、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの集中力に影響したのかもしれない。20分という長めの休憩の間に、演奏家たちの乗りの良さが失われたのかもしれない。

 

 それでも、第1楽章の序奏の美しさや(イタリアと違い提示部の繰り返しはしなかった)、第2楽章の激しい弦のスタッカート、第3楽章の荘厳な第2主題、第4楽章コーダの壮大な演奏など、いずれも充分満足できるものがあった。

 

もう2月も終わろうとしているが、今年のベスト・コンサートのひとつになることは間違いない。素晴らしいコンサートだった。

 

 


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