東京春祭 スプリング・ガラ・コンサート~イタリア・オペラの名曲を集めて
(ロッシーニ没後150年記念)
(3月28日東京文化会館大ホール)
プログラム
ロッシーニ:
歌劇《泥棒かささぎ》 序曲
歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「おいらは町の何でも屋」(Br)
歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「今の歌声は」(S)
歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「陰口はそよ風のように」(Bs)
歌劇《ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)》 第4幕より 「我が父の庵よ」(T)
歌劇《ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)》 序曲
ヴェルディ:
歌劇《椿姫》 第3幕への前奏曲
歌劇《椿姫》 第3幕より 「さようなら、過ぎ去った日よ」(S)
歌劇《椿姫》 第3幕 より 「パリを離れて、いとしい人よ」(T, S)
歌劇《マクベス》 第2幕より 「何という暗い闇が」(Bs)
歌劇《仮面舞踏会》 第3幕より 「永久に君を失えば」(T)
歌劇《ファルスタッフ》 第2幕より 「これは夢か? まことか?」(Br)
マスカーニ:歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より 間奏曲
プッチーニ:歌劇《ジャンニ・スキッキ》より 「私のいとしいお父さん」(S)
マスカーニ:歌劇《友人フリッツ》 第2幕より 「さくらんぼの二重唱」(T, S)
チレア:
歌劇《アルルの女》 第2幕より 「ありふれた話(フェデリーコの嘆き)」(T)
歌劇《アドリアーナ・ルクヴルール》 第1幕より 「私は創造の神の卑しい僕」(S)
出演:
アイリーン・ペレス(ソプラノ)、サイミール・ピルグ(テノール)、ジュリオ・マストロトターロ(バリトン)、マシュー・クラン(バス)。
指揮:レナート・バルサドンナ
管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
今年のガラ・コンサートの歌手陣は今が旬の実力派揃い。歌手は旬のうちに聴くのが一番と、オペラに詳しい友人から聞いたことがある。その点で、今夜は幸せなひとときだった。
4人とも良かったが、筆頭はソプラノのアイリーン・ペレス。コヴェント・ガーデンでの「椿姫」が「理想のヴィオレッタ」と絶賛されただけある表現力豊かな歌唱だった。第3幕「さようなら、過ぎ去った日々よ」は、臨終のヴィオレッタの苦しい息も再現しながら、情感を込めて歌う。ペレスの目に涙が浮かぶほど役に没入した歌は、迫真的で聴く者の胸を打った。ペレスは、低い声から高い声まで音域が広く、声質は潤いがあり滑らか。弱音のコントロールが素晴らしい。
ロッシーニ歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「今の歌声は」では、その特長を生かして幅広い音域を自由自在に操った。わずかに低い音がつらそうな場面もあったが。チレアの歌劇《アドリアーナ・ルクヴルール》 第1幕より 「私は創造の神の卑しい僕」は、堂々とした歌唱と最後のソット・ヴォーチェの微妙なコントロールまで完璧だった。
テノールのサイミール・ピルグはいかにもテノール歌手と言った歌声でスター性がある。張りと伸びがある強靭な高音に魅せられる。彼も弱音のコントロールが抜群にうまい。ヴェルディ、歌劇《仮面舞踏会》 第3幕より 「永久に君を失えば」、チレア、歌劇《アルルの女》 第2幕より 「ありふれた話(フェデリーコの嘆き)」は、大向こうをうならすパワー全開の歌唱。歌劇《椿姫》 第3幕 より 「パリを離れて、いとしい人よ」ではペレスと弱音までよく合った二重唱を聴かせた。
バリトンのジュリオ・マストロトターロは、強靭な歌声。ヴェルディ、歌劇《ファルスタッフ》 第2幕より 「これは夢か? まことか?」で、フォードの嫉妬と怒りの炎が燃え盛るような熱い歌唱を聴かせた。ロッシーニ、歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「おいらは町の何でも屋」では、力強くたのもしいフィガロを表現した。
バスのマシュー・クランは、4人の中では年長であり、落ち着いている。ロッシーニ、歌劇《セビリアの理髪師》 第1幕より 「陰口はそよ風のように」は、音楽教師バジリオにしてはやや重い。やはりヴェルディ、歌劇《マクベス》 第2幕より 「何という暗い闇が」が重厚な彼の歌声にぴったりだった。
指揮のレナート・バルサドンナは、ヴェネツィア生まれ。コレペティトールから始め、モネ劇場やロイヤル・オペラ・ハウスの合唱指揮者を務めた後、近年オーケストラやオペラの指揮を始めた。その指揮は、重厚で、懐が深い。ロッシーニ、歌劇《泥棒かささぎ》 序曲は重心が低く、ロッシーニ、歌劇《ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)》 序曲はスケールが大きい。ヴェルディ、歌劇《椿姫》 第3幕への前奏曲は終わっても拍手が起こらず、聴衆はそのまま歌に入って行くと思ったようだ。マスカーニ、歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》より間奏曲は甘さを抑えた。歌手への配慮も細かく一体感がある。優れたオペラ指揮者と言える。
東京春祭特別オーケストラには、都内主要オーケストラの首席クラスが多く加わっている。クァルテット・エクセルシオのメンバーも参加。確かな腕を持つ奏者たちが、今年も見事な演奏を聴かせてくれた。
アンコールは何と3曲のサービス。終演は午後9時半近く。
プッチーニ、歌劇《ラ・ボエーム》より「馬車にだって」(サイミール・ピルグ、ジュリオ・マストロトターロ)
モーツァルト、歌劇《ドン・ジョヴァンニ》より「奥様お手をどうぞ」(アイリーン・ペレス、マシュー・クラン)
ヴェルディ、歌劇《椿姫》 より「乾杯の歌」(全員)
写真:上からアイリーン・ペレス(ソプラノ)(c)Rebecca Fay、サイミール・ピルグ(テノール)(c)Paul Scala、ジュリオ・マストロトターロ(バリトン)、マシュー・クラン(バス)、レナート・バルサドンナ(指揮)