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Channel: ベイのコンサート日記
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東京春祭 THE DUET~中村恵理(ソプラノ)&藤木大地(カウンターテナー)

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327日、上野学園石橋メモリアルホール)

 コンサートのサブタイトルに「世界が認めたふたつの声のハーモニー」とあるように、中村恵理は2008年ロイヤル・オペラハウスにデビュー、2010年から6年間バイエルン国立歌劇場の専属、2016年ウィーン国立歌劇場にデビュー。藤木大地は昨年ウィーン国立歌劇場にデビューと、二人は世界の檜舞台で活躍している。若手のホープとしていま最も注目を集めている中村と藤木の共演は華があり会場は満席だった。

 

両人とも聴くのは初めて。先に結論を書くと、将来性は間違いないが、同時に課題も多い。良い点も課題も二人に共通している。
良い点は、声量が充分あること。声質も美しく力があり、大きな会場でもよく通る。
課題は、役柄と歌の意味の掘り下げと表現。細かいフレーズまで神経を使うこと。弱音をもっと活用すること。

 

まず中村恵理の歌では、プッチーニ「私が街を歩くと 歌劇《ラ・ボエーム》より」が最も良かった。客席通路に登場した中村は歌いながら舞台に上がってきた。派手な遊び人風のムゼッタだが、マルチェロを深く愛してもいる。その切ない思いが歌に込められていて、素晴らしかった。

 

藤木大地は、現代イギリスのジョナサン・ダヴが1998年初演の歌劇《フライト》から「夜明けだが、まだ暗い」に真実味があった。イラン難民がパリの空港ターミナルで15年以上生活した実話をオペラにしたもの。スピルバーグが「ターミナル」として映画化した。どちらも見ていないが、藤木の歌唱は、主人公の不安と希望を良く伝えていた。

 

一方で前半歌われたヘンデル、モーツァルト、ロッシーニ、グノー、オッフェンバックは、二人とも表面の歌詞を歌ってはいるが、もうひとつふたつ掘り下げが足りないと感じた。後半は藤木のJ.シュトラウス「僕はお客を呼ぶのが好きだ 喜歌劇《こうもり》より」のユーモアはなかなかだった。中村のヴェルディ「ああ、そはかの人か~花から花へ 歌劇《椿姫》より」は、声量と迫力で会場を沸かせるが、そこにドラマが出現して聴く者を引きずりこむまでのリアリティはなかった。

 

東京春祭にかけたのか、加藤周一作詞「さくら横ちょう」が、別宮貞雄作曲版(藤木大地)と、中田義直作曲版(中村恵理)が歌われた。別宮は大人の恋愛のほろ苦さを、シャンソンを思わせる歌の中に見事に表現、一方中田は青春の恋愛を感じさせる。ここでの藤木大地の歌唱が、とてもなめらかで自然だった。この自然さを藤木は、オペラにも生かしたらいいのではないだろうか。ヘンデルやモーツァルトの場合、時に力で押すことが多く、なめらかさと細やかさが不足していたと感じられた。

 

全体的に、園田隆一郎のピアノにも問題があったのではないだろうか。オペラ指揮者、あるいはコレペティートルとしては優れているのかもしれないが、歌手に寄り添い助ける、歌手と一体になる段階までは達していなかった。

 

二重唱が6曲歌われたが、アンコールのヘンデル歌劇《ジュリアス・シーザー》から「ただあなたを見つめ」が最も良かった。力が抜け、ハーモニーに柔らかみが感じられた。 

 

写真:左より中村恵理 (c)Chris Gloag、藤木大地、園田隆一郎 (c)Fabio Parenzan

 

 


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