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Channel: ベイのコンサート日記
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ピエタリ・インキネン 日本フィル ワーグナー「言葉のない《指環》」

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428日、サントリーホール)

 ロリン・マゼール編曲によるワーグナー「言葉のない《指環》」 がメインプログラム。
ベルリン・フィルの依頼により、1987年にこの管弦楽曲を編むにあたり、マゼールは、ワーグナーの意図をできうる限り尊重した。具体的には以下のポリシーを貫いている。


・全体は自然に切れ目なく続くこと。物語のまま《ラインの黄金》の最初の音に始まり、《神々のたそがれ》の最後の音で終わること。
・曲のつなぎは自然になるように。
・オリジナルでオーケストラのみで書かれた音楽はそのほとんどを使う。歌がある部分をやむを得ず使うときは、歌の旋律が楽器で重ねて演奏されているか、楽器で置き換えられる部分とする。
4:すべての音符は、ワーグナー自身が書いたものだけに限る。

 

 こうした厳格なポリシーを自分に課しながらワーグナーの《指輪》を、ストーリーに沿って管弦楽で描くのは難しい仕事だったと思う。その結果一部物語のつなぎに無理があるところもある。例えば《ラインの黄金》で、雷神ドンナーが槌を振り下ろした直後に《ワルキューレ》のジークムントがジークリンデに水を求める場面になり、そのあとに《ワルキューレ》前奏曲の一部が奏されるという部分がそれにあたる。

 

 しかし、これ以降はほぼ物語の順序通りに、音楽的に違和感なく進んで行った。

 

奇しくもインキネンと日本フィルの演奏も、このあたりから、すなわち辻本玲の素晴らしいソロによる《ワルキューレ》~「ジークムントの愛の眼差」が出てから、アンサンブルが飛躍的に良くなっていった。

 それまでは《ラインの黄金》冒頭のホルン8本のハーモニーがかなり厳しく、正直このままで大丈夫かと気をもんでいたところだった。

 

 《神々の黄昏》はこの日のインキネンと日本フィルの演奏の頂点となった。「ジークフリートとジークリンデの情熱を包む朝焼け」「ジークフリートのラインの旅」「家臣を招集するハーゲン」としり上がりに演奏の密度が濃くなり、「ジークフリートの葬送行進曲」と「ブリュンヒルデの自己犠牲」は、金管、木管、弦の各セクションの演奏もさらに充実し、最も素晴らしい演奏となっていた。

 

 インキネンはオーストラリアでの二度の《指環》ツィクルスを大成功させた実績があり、また昨年も日本フィルとの演奏会形式による《ラインの黄金》も好評を得て、今回も自信に満ちた指揮ぶりだった。日本フィルも大健闘。

 

 前半の歌劇《タンホイザー》序曲と、歌劇《ローエングリン》より第1幕、第3幕への前奏曲は、可もなく不可もなくといった出来。

 


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